コラム「音楽編」
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掲載日2011-09-28
この原稿は、『新潮45』2011年7月号に書いたものです。“500万ヒット記念!”といってもいい原稿として“蔵出し”します。

お見事!佐渡裕のベルリンフィル・デビュー

 黄色い大きな屋根がサーカス・テントのようにも見えるため、かつては「カラヤン・サーカス」とも呼ばれたベルリン・フィルハーモニー。現在は「ヘルベルト・フォン・カラヤン通り」と名付けられた一番地にあるそのホールを本拠地とする「世界最高峰のオーケストラ」ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団。その定期演奏会で佐渡裕さんが指揮をする、というのでベルリンへ飛んだ。

 それは多くの日本のメディアにも報じられたとおり、いや、それ以上に、じつに素晴らしい見事なコンサートだった。

 5月20〜22日の3日間行われた演奏会のうち、私が聴いたのは真ん中の21日。演奏された楽曲は2曲。1曲目は武満徹作曲『五人の打楽器奏者とオーケストラのための"From me flows what you call time"(あなたが時と呼ぶものが私から流れ出る)』。1990年にニューヨークのカーネギー・ホール百周年を記念して、小沢征爾指揮ボストン交響楽団の演奏会のために委嘱されて作曲された楽曲で、40分近い大曲だ。

 五角形の形状をした客席数2440席のホールを埋めたほぼ満席の観客の大きな拍手に迎えられ、並のドイツ人より大柄な佐渡さんが、燕尾服に身を包んで登場。軽く一礼のあと軽い足取りで指揮台に上がり、オーケストラに向かって指揮棒を持たずに静かに腕を振る。すると、尺八の音色にも聴こえる美しく見事なフルート・ソロが響いた。

 そしてホールのあちこちから客席のあいだを歩いて打楽器奏者が登場。赤緑青黄白のそれぞれ原色のカラー・シャツを着た五人の奏者が金属製の小さなシンバルのような打楽器の澄んだ音を響かせながら、指揮者の両脇やオーケストラの奥の位置に着く。そして様々な打楽器の音色がオーケストラの東洋的な響きと相俟って、水墨画のような「音世界」あるいは「音による時間」が流れ出る。

 それは竜安寺の石庭の世界か。その石庭の風景が一瞬東北地方沿岸の津波の痕の被災地の光景にも映ったのは、オーケストラが不気味な音色を奏でたからか。またはベルリンフィルを指揮する直前の佐渡さんのコメントが頭に浮かんだからか。

「大震災後、音楽家として何ができるのか悩みました。が、とにかく自分ができる仕事を全力でやり遂げようと……。その結果、被災された皆さんが、少しでも元気になられるような演奏ができればうれしい……」

 指揮者の左右に位置して和太鼓や木琴を打ち鳴らしていた二人の打楽器奏者が、ホールの高い天井近くまで伸びた細く長い幔幕のような五色の布を引き絞ると、天井近くにある風鈴のような楽器が優しい音をたてる。音楽とは本質的に、鎮魂であり救済でもある、と思える一瞬……。

 始まりもなく、終わりもないような「音楽の時」がベルリンのホールから「流れ出る」。そして大拍手。「ブラヴォー」の声。ドイツの聴衆は耳が肥えている、現代音楽にも理解がある、とは聞いていたが、なるほど……と納得しながら、私は七〜八年ほど前に、佐渡さんと交わした会話を思い出していた。

「玉木さん、武満徹の音楽って聴く?」
「『弦楽のためのレクイエム』と『ノーヴェンバー・ステップ』は嫌いやないですよ。けど、谷川俊太郎の詩に音楽を付けた歌以外は、あんまり積極的に聴きたいとは思わんなぁ」

「やっぱり現代音楽って、取っ付きにくいもんね」
「そう。はっきり言うて難しい」
「うん。僕も最近までそう思てた。けど、このごろ武満さんの音楽がメチャメチャええと思えるようになったんやねん。武満さんの残した楽譜は、どれもほんまに素晴らしいでぇ」

 いかにも佐渡さんらしい、あまりにも正直な京都弁の言葉に、私は少々苦笑いもしたが、それ以来私も、武満に限らず「現代音楽」に先入観なく耳を傾けるようになった。そして佐渡さんとベルリン・フィルによって創られた「武満の音による時空間」は、溜息をつきたくなるほどが美しいものだった。

 休憩を挟んで二曲目はショスタコーヴィチ『交響曲第五番』。これは佐渡さんが自家薬籠中と言えるほど得意としている楽曲で、これまでに日本のオーケストラとも大名演と言える迫力ある演奏を聴かせていた。が、さすがはベルリン・フィル。天下一品のヴィルトゥオーソ(名人)オーケストラが、その技量を余すところなく発揮した音楽は、まったく新たな豊穣な世界を出現させた。

 いや、その名人芸を佐渡さんが引き出したのだ。第一楽章冒頭の低音弦(チェロとコントラバス)と高音弦(ヴァイオリン)の強烈な響きの掛け合いも、冷たいロマンチックな悲しみに満ちたメロディも、激情的に狂おしい熱狂的なサウンドも、さらに第二楽章の木管楽器群の諧謔的な響きも、若き日本人コンサートマスター樫本大進による小洒落たソロも、すべてが見事な迫力に溢れていた。

 そんななかでも素晴らしかったのが第三楽章で、これほど小さなピアニッシモの音が豊かに響くヴァイオリン群の音を、私は初めて耳にした。そして、そのトレモロをバックにしたフルート・ソロの美しいこと! 奏者はベルリン・フィルのメンバーでもあり、ソリストとしても有名なフランス系スイス人のエマニュエル・パユ。佐渡さんが司会をする『題名のない音楽会』にも登場したことのあるフルーティストで、武満の音楽でも冒頭のソロでオーケストラ全体を引っ張り、ショスタコーヴィチの「凍てついた哀しい世界」も見事に表現していた。こういう知人の存在は、ベルリン・デビューの佐渡さんにとって、大きな精神的援軍となったに違いない。さらにオーボエやクラリネットのソロも、息を呑むほどの美しさ!

 そのうえ見事だったのは、この「ラルゴ」(幅広く緩やかに)と指定された楽章が、きわめて東洋的に響いたことだった。それは、けっして私の思い入れではないだろう。

 ショスタコーヴィチの『交響曲第五番』は、我が国では『革命』という副題で呼ばれることもあり、一般的に第三楽章はロシアの革命前(あるいは民主化前)の苦難の世界を表すものと考えられている。また、ベートーヴェンの『運命』とも称される『交響曲第五番』にも比肩される「苦悩を抜けて歓喜に至る」西洋クラシック音楽の典型であり、あるいは、その二十世紀における再現とも考えられている。

 しかし佐渡裕とベルリン・フィルの演奏は、ロシア人ショスタコーヴィチの音楽がさらに東洋への広がりを濃厚に有し、武満徹の音楽――石庭の世界、東洋の島国の被災地の世界――にもつながることを示していた。

 そして第四楽章の壮大な歓喜! もはや東洋とか西洋といった限定された世界を打ち破り、インターナショナルで圧倒的な音量が爆発的にホール全体を包み込んだ!

 音楽を言葉で理屈付けるのは、正しい方法ではないだろう。しかしベルリン・フィルという極めてユニークなオーケストラを、佐渡裕という、これまた極めて大きな個性に溢れる指揮者が指揮したのだ。しかも素晴らしい演奏で、武満徹とショスタコーヴィチの世界を響かせた。そうなると、その見事に感動的な演奏に涙し、「ブラヴォー」を叫び大拍手を贈るだけでなく、その出来事の「意義」に、深く思いを巡らせてみたくもなる。

 佐渡さんは京都の小学校を卒業するときの文集に『大きくなったらベルリン・フィルの指揮者になる』と書いた。今年の5月13日で50歳になった彼のベルリン・フィル・デビューは、その子供のときの夢が叶った快挙と言える。が、もちろん、それだけではない。

 佐渡さんは今年一月、彼が音楽監督を務める吹奏楽団シエナ・ウインド・オーケストラの20周年記念コンサートのゲストに、旧知の淀川工科高校吹奏楽部顧問の丸谷明夫氏を招いた。そして日雇い労務者が屯(たむろ)し、「演歌をヤレよ!」などと声が飛ぶ大阪釜ヶ崎で演奏会を行い、最後はそんな聴衆が涙で拍手を贈る丸谷氏のコンサートの様子を話し、讃えたあと、「こういう活動があることを心に抱いて、ベルリン・フィルの指揮台に立ちたいと思います」と語ったのだった。

 ベルリン・フィルという頂点に立つ「夢」を果たす一方で、音楽活動の裾野を忘れない。それが佐渡裕という指揮者なのだ。

 かつて作曲家で指揮者の山本直純氏は、3歳年下の小沢征爾氏に向かってこう言った。「自分は音楽の裾野を広げる。お前は世界を目指せ」。そして山本直純氏は愛嬌溢れる髭面でテレビ番組『オーケストラがやってきた』の司会を務め、「大きいことはいいことだ」と歌ってTVCMで人気を博す一方、小沢征爾氏はボストン交響楽団からウィーン国立歌劇場の音楽監督へと羽ばたいたのだった。

 こんな「過去の時代」のエピソードがあるためか、我々「古いクラシック・ファン」は、音楽の「裾野を広げる仕事」と「世界を目指す営為」は二律背反、両立は困難……と考えがちだ。じっさいベルリン・フィル・デビューを果たした佐渡さんに向かって、「これからは仕事を選ばないといけませんね」と語った音楽ジャーナリストもいたらしい。が、多分それは過去の考え方なのだ。日本の音楽界が、まだ「世界に追いつこう」という意識で、がんばっていた時代の考え方に違いない。

 そもそもベルリン・フィルというオーケストラ自体が、宮廷(王立)歌劇場管弦楽団などとは誕生の経緯自体が異なる大衆的な存在といえる。「フィル(ギリシア語で「愛する」)ハーモニー(英語で「調和」「和音」)」という「音楽を愛する団体」の誕生の経緯は専門誌に譲るが、ニキシュやフルトヴェングラーが主席指揮者を務めていた戦前から、ベルリン・フィルは工場や学校でのコンサート、ドイツ国内やヨーロッパの演奏旅行を繰り返した。そしてカラヤン時代に演奏旅行の範囲をアメリカや日本へ広げたのも、ベルリン・フィルの大衆化路線を推し進め、「世界のオーケストラ」としてクラシック音楽ファンと音楽マーケットの拡大に務めたものといえる。

 さらにベルリン・フィルにはベルリンという都市の特殊性が加わっていることも忘れてはならない。1963年にフィルハーモニー・ホールが造られたときは、まだ「ベルリンの壁」がすぐ近くに存在し、同じ年にアメリカ大統領J・F・ケネディがベルリンを訪れ、有名な「ベルリン演説」を行った。

「すべての自由な人間は、世界中のどこに住んでいてもベルリン市民である。だから私も自由な人間の一人として、誇りを持って言いたい。イッヒ・ビン・アイン・ベルリナー(私は一人のベルリン市民である)」

 当時の西ベルリン市民と西ドイツ国民に大きな感動を与えた名演説の精神は、「壁」のなくなった現在も生きている。ベルリンはドイツの首都という以上に国際都市、世界都市、未来都市として存在している。ブランデンブルク門のすぐ傍にユダヤ人大量虐殺を記憶に残す2711基もの棺桶のような石碑が並び、その近くにはナチスの犠牲になった同性愛者を追悼する碑も立っている。

 そして何よりも世界中から音楽の名手が集まり、ユダヤ系ポーランド人(ダニエル・シュタブラーヴァ)やイスラエル人(ガイ・ブラウンシュタイン)や日本人(樫本大進)がコンサートマスターを務め、イギリス人(サイモン・ラトル)が主席指揮者兼芸術監督を務めるベルリン・フィルハーモニカーこそ、「世界都市ベルリン」の文化の象徴と言える。

 だから既に、コンセール・ラムルー管弦楽団、パリ管弦楽団、ミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団、チェコ・フィル、ベルリン・ドイツ交響楽団、バイエルン国立歌劇場管弦楽団……等々、ヨーロッパの様々な一流オーケストラで数々の名演奏を残していた佐渡裕さんをベルリン・フィルが招いたのは当然のこととも言える。

 少々乱暴に言えばニューイヤー・コンサートで日本でも有名なウィーン・フィルなら、どんな指揮者が指揮しても国立歌劇場(旧宮廷歌劇場)のオーケストラでもあるウィーン・フィルならではの「音と音楽」を奏でるだろう。が、世界都市ベルリンのフィルハーモニー(音楽を愛する)オーケストラは、指揮者の指揮に極めて敏感に反応するのだ。

 佐渡裕さんが指揮したときも、彼の指揮棒に対するベルリン・フィルのあまりに鋭敏な即応に、心の底で「凄い!」と唸らされた部分が何か所もあった。が、それはとりもなおさず、無能な指揮者に対する無反応を意味するもので、佐渡さんのファンでもあり友人である小生としては、少々背筋に冷たいものを感じる一瞬でもあった。

 しかし、もちろん佐渡さんは、そんな素晴らしくも怖ろしい世界超一流の「ワールド・オーケストラ」の指揮台に立ち、見事にそのメンバーを牽引してみせた。その素晴らしい演奏についてはドイツの新聞の演奏会評でも絶賛された。

『彼が夢見たオーケストラでのデビュー演奏会は大勝利となった。これは注目に値することだ。なぜならベルリン・フィルは、どのデビュー指揮者に対してもこれほど献身的に演奏するわけではないから……』(『ターゲス・シュピーゲル(日々の鏡)』紙より)

 しかし評論家の批評以上に素晴らしかったのは、初日と最終日に拍手が鳴りやまず、オーケストラが退出したあと空になったステージに佐渡さんが呼び出されたことだった。残念ながら私の聴いた2日目だけはそこまで拍手は続かなかったが、心のなかには素晴らしい音楽がいつまでも響き続けた。

 そして2日目の演奏会のあとにはフィルハーモニー・ホール近くにあるポツダム広場のドイツ料理店で、3日目(最終日)の演奏会のあとには少し離れた日本料理店で、それぞれ打ちあげのパーティが開かれた。

 30人くらいの支援者やファンの参加したどちらのパーティも、いかにも佐渡さんにふさわしい心温まるパーティだったが、とりわけ佐渡夫人もテーブルに着いた前で、日本から来られた佐渡さんの両親が涙を見せられた最終日のパーティでは、思わずもらい泣きしそうにもなった。

 それはさておき報道によれば、これまでベルリン・フィルを指揮した日本人は戦前の近衛秀麿氏以来14人。そのなかで特別演奏会や臨時の代役ではなく、定期演奏会に正式に招かれた指揮者は、小沢征爾氏、小泉和裕氏以来、佐渡さんで三人目。佐渡さんも、予定されていた指揮者が病気などの理由でキャンセルとなり、臨時の代役としてオファーを受けたことは過去に三度あったという。が、どれもスケジュールの調整がつかないまま見送り、悔しく残念に思いながらも、どうせ指揮台に立つのなら正式に定期演奏会の指揮者として招かれて……と思っていたところでの「夢の実現」だった。

「子供のときにベルリン・フィルの指揮者に……と書いたのは、別にベルリン・フィルそのものを指していたわけでなく、世界で超一流のオーケストラをという意味だったんですけど、それから40年たった今も、ベルリン・フィルがそのトップの座を維持し続けているというのは、考えてみれば凄いことだと思いますね」
 と、佐渡さんは言う。

 たしかに競争も激しく、政治や経済の影響もモロに受け、栄枯盛衰から逃れられない世界のクラシック音楽界のなかで、少年の「夢」が形を変えずに残っていたほうが、むしろ奇蹟と言えるかもしれない。その「夢」のまま存在し続けたベルリン・フィルの指揮台に立った気分は?

「練習のときから、ああこれが昔からレコードで聴き慣れた響きや……という感じで、本番の1日目は無我夢中のまま終わりました。2日目は確かな手応えというか、自分の棒で演奏ができたと思います。そして3日目の最終日は、何かが舞い降りてきたというか……別の世界に入るというか……。ベルリン・フィルと一つになって、音楽の世界に没入しました。もう最高の気分でした」

 最高の気分はベルリン・フィルのメンバーも同じだったようで、彼らの多くは演奏会が終わると三日間ともビールに手を伸ばし、呆れるほどジョッキを呷(あお)り始めた。なるほど『デビュー指揮者に対して』『これほど献身的』な演奏をすると同時に、彼らがこれほど十分な「満足感」や「充実感」を得ることも珍しいことだったに違いない。

 その佐渡さんのデビュー初日に、かつてバーンスタインの個人秘書を務め、今もニューヨークのバーンスタイン事務所で広報部長を務めているクレイグ・アークハート氏が訪れ、こう語った。
「レニー(バーンスタイン)はベルリン・フィルを一度しか指揮できなかったけど、きみ(佐渡)は三度は呼ばれるだろう」

 その話を佐渡さん自身がパーティの席で披露し、それを聞いた誰もが喜んで拍手し、納得していると、佐渡さんが「寂しいなあ。あとたった三回だけかいな」と言って笑わせた。だから私が、「いや、十回くらいは呼ばれるでぇ」と京都弁で言うと、「それでもたった十回で終わりかいな」と京都弁で返され、日本から来ていたTVディレクターやカメラマン、靴職人さんや神戸のバーのマスター、それに佐渡さんがパリでお世話になった方々……等々、佐渡さんの「仲間」と呼ぶべき人々が全員、声をあげて大笑いしたのだった。

 そんななかで、佐渡さんが小さな声で呟いた言葉を私は聞き逃さなかった。
「いつか、ヴァルトビューネで指揮したいなあ……」
 それは毎年六月下旬、前年秋から続いた音楽シーズンの最後に催され、ベルリン市郊外のヴァルトビューネ(森の舞台)の広大な芝生席に一万人以上の家族連れやカップルが集まり、ビニールシーツを広げ、ワインを飲んだりサンドイッチをつまみながら音楽を楽しむベルリン・フィルの野外ピクニック・コンサート。1993年には小沢征爾氏が指揮台に立ち、最近はNHKも毎年放送しているので御存知の方も多いと思うが、いかにも佐渡さんにお似合いの「大音楽会」である。

 高い「頂点」を極めると、じつはそこには広い「裾野」ともいうべき高原が広がっていた――というトポロジー的展開が可能なのは、世界都市ベルリンのフィルハーモニー・オーケストラと、佐渡裕というきわめてナチュラルな庶民的な指揮者の合体によって初めて可能な出来事と言うべきだろう。

 まるで「出世双六」の成功譚のように語られることも少なくない佐渡裕のベルリン・フィル「頂点」デビューだったが、じつはそこには日本の音楽活動の「裾野」を再認識させられるような世界も広がっているのだ。そのことに気付かせてくれた佐渡さんとベルリン・フィルに感謝! 次はヴァルトビューネで!


第16回 (最終回)ヴェルディのブンチャカチャッチャにハマル

 世の中には《ハマリやすいもの》がある。
 酒、タバコ、コーヒー、紅茶、麻薬、ギャンブル……などが代表的だが、心理学者によると、ほかにも、激辛(激甘)食品、高脂肪食品、性行為、ポルノ商品の購入使用、無目的なテレビの視聴、クルマのスピードの出しすぎ、お金を使うことを目的とする買い物、多忙であることを目的とする仕事、口論、議論、暴力、他人の支配……等々も《ハマリやすいもの》だという。

 が、そのなかに、なぜか「音楽」が含まれていない。ハマッても害がないからとりあげられないのか……理由はわからない。が、モダン・ジャズにハマッた奴の理屈っぽさは、酒乱よりもタチが悪いようにも思う。

 それに、オペラにハマルと、もう、タイヘンだ。家計を省みず次からつぎへと高額のチケットやCDやDVDを買い、海外の歌劇場まで足を伸ばすようにもなる。

 なかでも、ワーグナーとヴェルディのオペラは、ハマルと中毒症状が現れ、ワーグナーの場合は陶酔感とともに酩酊状態に陥り、ヴェルディの場合はブンチャカチャッチャというリズムが頭に鳴り響き、躁状態に陥る(ロッシーニ・クレッシェンドにハマッたオペラ・フリークもいるようですが……)。

 正直いって、小生は、いま「ヴェルディ病」に取り憑かれている。それは、メトロポリタン・オペラの来日公演『リゴレット』の素晴らしい舞台を見たせいでもあるのだが、毎日一度は、ヴェルディのブンチャカチャッチャを耳にしないと落ち着かない。

 しかも『アイーダ』『オテロ』『ファルスタッフ』といった晩年の傑作ではなく、『ナブッコ』『群盗』『アティラ』『エルナーニ』『二人のフォスカリ』といった初期の佳作にハマッている。それらのほうが、ブンチャカチャッチャの単純なリズムが頻繁に現れるのだ。

 それら初期の作品は録音も少なく、CDは手に入り難かったのだが、最近ワーナーレコードから『ヴェルディ選集』として、往年の名演奏のCDが一気に発売された。

 おかげで、小生の頭のなかはブンチャカチャッチャが鳴り響きっぱなしである。でも、まあ、ワーグナーに酔って哲学ブルよりはマシだろう……とひとり、言い訳をしているのだが……。

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・ 連載「日本人ならオペラ・ファン」第2回 オペラのテーマは男と女〜しかも90パーセントが不倫!

・ 連載「日本人ならオペラ・ファン」第1回 日独伊オペラ歌舞伎三国同盟

・ 山下洋輔さん(ジャズ・ピアニスト)――自由な音の跳躍

・ 佐渡裕『僕が大人になったら』〜解説「デッカイことはいいことだ!」

・ 『現代』書評 新書・選書おたのしみレビュー〜音楽本を読みましょう

・ 紫色の音にして〜追悼・浅川マキ、唄い続けた生涯

・ 玉木正之の『オペラ超入門 徹底解説講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』 第4期 プッチーニがオペラで描いた「女性」と「愛のカタチ」のすべて!〜華麗なるイタリア・オペラを味わい尽くす!

・ まえがき――貪欲な音楽ファンの呟き

・ 劇団冬季ミュージカル・シアター 8000回突破連続上演中!

・ 胸のわくわくするコンサート――西の端(ハーディング)と東の端(佐渡裕)の邂逅

・ 佐渡裕さんのベルリン・フィル・デビューに拍手!〜世界が愛する世界市民オーケストラ

・ お見事!佐渡裕のベルリンフィル・デビュー

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第15回 小泉さん、日本のオペラにも注目して! / 第16回 (最終回)ヴェルディのブンチャカチャッチャにハマル

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第13回 「オキュパイド・ジャパン」(占領下の日本)のノーテンキな素直さ / 第14回 エレキギター協奏曲はキワモノ?

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第11回 一流の音楽家は一流の指導者でもある / 第12回 指揮者だけは、昔がよかった…かな?

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第9回 スポーツと音楽――その親密な関係 /第10回 万葉以来「歌」と生きている日本人

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第7回 日本最高のオペラ歌手・三波春夫 /第8回 映画音楽はイタリアンに限る!

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第5回 天才・筒美京平の歌謡曲は消えてゆくから美しい?/第6回 イタリアのド演歌歌手フィリッパ・ジョルダーノ

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第3回 森進一の「雪が降る」/第4回 バーブラ・ストライザンドの「歌曲」

・ 『大人ぴあ』連載「玉木正之のちょっとオモロイモン」第1回 ひばりのプッチーニ/第2回 クレオ・レーンのシェーンベルク

・ スポーツ&音楽〜どちらも最高に面白い!

・ 音楽のパワーを実感〜『第九』でのハーディング氏との幸運な出会い

・ 玉木正之の『続々オペラ超入門講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』第2期 Viva! Verdi! ヴェルディ万歳!〜華麗なるイタリア歌芝居の世界!

・ 特報!! 撮影快調! 完成間近!! 公開迫る!映画『幻の幻燈辻馬車』の『遊び場』

・ 若きバーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの演奏は、名演の宝庫。なかでも「ショスタコ五番」は絶品の一枚。

・ 美しすぎるメロディは「何」を表す?

・ メジャー級のプレイと音楽

・ イタリア・オペラからイタリア・サッカーを理解する

・ 玉木正之の『続々オペラ超入門講座〜オペラを心ゆくまで楽しみましょう!〜』第1期「オペラのツボ」

・ 『カルメン』は怖ろしい

・ ロマン派を金聖響さんの指揮で聴ける喜び

・ ベートーヴェンと『神』と『人々』は、どんな三角形を形づくるのか?

・ 天才バーンスタインが残した『キャンディード』もう一つの大傑作

・ 映画とは「オペラ」である。

・ 紫色の音にして 追悼・浅川マキ、唄い続けた生涯

・ 『山下洋輔プロデュース IMPROVISING ブーニン! 吉例異種鍵盤技名人戦/先手・鍵聖無有人古典派八段 VS 後手・盤鬼ヨウスケ邪頭派八段/初春 夢幻の対決』

・ オペラ『忠臣蔵外伝』第1幕第2場、第3場 作曲/三枝成彰 脚本・演出/島田雅彦 美術監督/日比野克彦 再構成/玉木正之

・ オペラ『忠臣蔵外伝』 作曲/三枝成彰 脚本/島田雅彦 再構成/玉木正之

・ マリオ・デル・モナコは長嶋茂雄である

・ ドラマチックに、そして、優しく……――大岩千穂さんの歌心

・ ダフ屋の矜恃

・ スポーツは音楽とともに

・ 玉木正之の『クラシック音楽道場入門』 第1期「クラシックはオモシロイ〜その楽しみ方」

・ BRAVO! 神奈フィル新常任指揮者・金聖響さんの「魔法」に期待する!

・ 『ウェスト・サイド・ストーリー』は最高のオペラ?

・ 日本人なら『椿姫』で泣ける

・ 「オペラ=音楽プラス世界文学」 それは、人生を楽しむ最高のツール!

・ オペラのテーマは男と女。しかも90パーセントが不倫!

・ アメリカ音楽が超大国アメリカを支える!?

・ 21世紀のベートーヴェン――その国際性と多様性

・ ベートーヴェンの『天の時、地の利、人の和』

・ 純文学書き下ろし序曲『のだめのためのだめな虚無舞踏序曲(ダンシング・ヴァニティ・オヴァチュア)』

・ 『指輪物語』よりも面白い『ニーベルンクの指環』

・ 日本人ならオペラ・ファンになる!〜「日独伊オペラ歌舞伎同盟」

・ オペラといえば『トゥーランドット』!?

・ 真のオペラの誕生と成長

・ 「身体の音楽」――太鼓打ち・林英哲さんに関する断想

・ トリエステ・オペラの魅力〜イタリア・オペラの神髄

・ 玉木正之の『オペラはやっぱりオモロイでぇ』 第15期「オペラで世界文学全集!」

・ 玉木正之のオペラへの招待 大人の恋の物語『メリーウィドウ』

・ 『ジャンニ・スキッキ』の舞台は京都?

・ クラシック音楽ファン、オペラ・ファンは、なぜDVDに狂喜しているのか?

・ 「不〜倫火山」大爆発!善男善女の皆さんも、煩悩まみれの皆さんも、みんな一緒に御唱和ください!「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」

・ クラシック・コンサートは「真に新しい音楽」に触れる場所

・ オペラとは男と女の化かし合いを楽しむもの

・ 50歳からのホンモノ道楽

・ 『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第14期「オペラ掘り出しモノ!」

・ 山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート ヨースケ&サド緊急“生”記者会見!『いま明かされる!反則肘打ち事件の真相』

・ 「ベートーヴェンの交響曲」その名声と誤解

・ ベートーヴェンの「圧倒的感動」

・ ファジル・サイの魅力

・ スポーツは音楽とともに――フィギュアスケートはオペラとともに

・ 300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第3弾!

・ 300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第2弾!

・ 300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第1弾!

・ 天才少年ヴィトゥスとテオと音楽と……

・ 『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第13期「オペラは、ゼッタイ演出に注目!」

・ <演歌 de おぺら(エンカ・デ・オペラ)>上演企画書

・ 『指揮者列伝』ミニミニ・ダイジェスト「カラヤン・ゲルギエフ・セラフィン・バーンスタイン」

・ あけましてフリー漫才

・ 男の子がヴァイオリンを弾くのは恥ずかしいことだった・・・?

・ 『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第12期「オペラは、祭りだ! お祭りだ!」MUSIC FESTIVALS IN THE WORLD

・ 革命的斬新さを失わない音楽――それがクラシック

・ いつの世も変わらない「親子」と「男女」

・ 日本ポップス史講座アンケート

・ 待ち焦がれた“パリジャン”の本領

・ 「浪漫派ベートーヴェン」を存分に楽しませてくれた演奏に心から拍手

・ 音楽家はいかにして演奏に心をこめるのか?

・ JAZZとテツガク

・ ソロ(孤高)を求めてバンド(連帯)を怖れず!

・ 我が「師匠」福島明也の魅力

・ 城之内ミサ『華�Uroad to OASIS』「ジャンル」を超えた素晴らしい音楽

・ 懐かしい空間の響き

・ 佐渡&玉木のぶっちゃけトーク

・ 五嶋龍―「神童」の生まれ出る一瞬

・ ヤッタリーナ!ガンバリーナ!イタリーア!

・ アメリカのスポーツとアメリカの音楽

・ フィリッパ・ジョルダーノの魅力〜フィリッパの歌はイタリアの味

・ 「私の好きな音楽」身体で感じる世界

・ 玉木正之の『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第10期「オペレッタを楽しもう!」

・ リヒャルト・シュトラウスのオペラは宝塚にふさわしい

・ 日本人は「万葉集」以来「歌とともに生きている」

・ 東方の奇蹟の二重唱

・ 永遠の歌声

・ 「原点回帰」の「山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート2006」に贈る新春お笑い寄席 新作古典落語『人生振出双六』

・ 20世紀最高の「歌役者」

・ クルマとラジオ

・ 世界は演歌に満ちている

・ バーブラは諸行無常の響きあり

・ 最高の「日本オペラ」

・ タイムマシンと冷戦時代

・ ニッポンは明るい!

・ 春の祭典

・ シャンソンは高級?

・ イタリアはイタリア

・ ジャズはサッカー?

・ 世界はひとつ?

・ 大事なのは、質より量?内面より外見?

・ ビートルズはわかる?

・ 無人島で聴く最後の歌

・ 歌は世に連れない

・ クレオ・レーンの学歴

・ ひばりの川流れ

・ NASAと蓄音機

・ 日本人の遊び心

・ 「革命的音楽」は時代とともに消えてゆく?

・ 究極のノスタルジー

・ 『プロの仕事』

・ 佐渡&玉木のぶっちゃけトーク(最終回)

・ 「映画を所有したい!」と思うのは何故?

・ 討ち入りや ゑひもせすまで ジャズに酔ひ――『ジャズマン忠臣蔵』講釈・前口上

・ ゲルギエフの引き出す無限の可能性/偉大な芸術とは、オモロイもんである。

・ 冬の夜長にオペラ――その極上の面白さをDVDで味わう

・ 都はるみさんの「世界」との新たな出逢い

・ 天国の大トークバトル『クラシック あとは野となれ ジャズとなれ!』

・ 超虚構音楽史―山下洋輔作曲「ピアノ・コンチェルト」の世紀の一戦

・ 男と女の愛の形――悪いのはどっち?

・ 「世の中に新しきものナシ」あらゆる創作はパクリである?

・ モーツァルトのオペラのおもしろさ

・ 人を愛し、未来を信じ、時代を超越するパワー

・ バーンスタイン『キャンディード』の単純明快な世界

・ いつの世も変わらない「親子」と「男女」

・ <演歌 de オペラ>上演企画書

・ カルロス・クライバー〜〜実体験なき体験/〜夢のような体験

・ 歌うピアニスト ―― G&G(グルダとグールド)

・ グレン・グールド<ガラス=音楽=グールド>

・ 『ブルース・ブラザース』讃

・ 翔べ! 21世紀へ!「エレクトリック・クラシック」の翼に乗って!

・ サロメ――官能と陶酔の神話の魅力

・ 神野宗吉(ジャンニ・スキッキ)の娘・涼子(ラウレッタ)のアリア『好きやねん、お父ちゃん』(『私のお父さん』)

・ 「子供(jr)」という大発見

・ NHK-FM『クラシックだい好き』 1〜6回プログラム

・ 島田雅彦のオペラと小説――『バラバラの騎士』と『どんな? あんな?こんな? そんな!』

・ 「オペラ忠臣蔵」のテロリズム

・ フリンオペラ年表400年史『オペラの歴史はフリンの歴史』

・ 極私的ワーグナー体験の告白『私は如何にしてワーグナーの洗脳を解かれたか?』

・ ベートーヴェンの「朝ごはん」

・ サッカーと音楽の合体――それがスポーツ!それがワールドカップ!

・ オペラ「アイーダ」の本当の魅力

・ ヨースケのことなら何でもワカル!『ヤマシタ・ヨースケ・ジャズ用語大辞典』遠日発売未定 内容見本

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