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2月4日イタリア・ミラノで開催されたIOC(国際オリンピック委員会)総会で、きわめて興味深いことが話し合われた。
それは夏季オリンピックの競技の一部を、冬季オリンピックに移すことの検討を始めたというもの。早ければ次期冬季大会の30年フランス・アルプス大会から、一部の"夏季競技"が冬季五輪に移されるという。
そのような検討がなされたのは夏季五輪の競技数が増加する一方で、28年のロサンゼルス大会は史上最多の36競技351種目が行われ、参加人数も選手だけで1万1千人を超え、コーチ、審判、役員、メディア等の関係者は約2万人。観客も加えると海外から合計5万人近い人々が、1か月足らずのうちに1都市に集まることになった。
一方、冬季五輪は8競技116種目で、約2900人の選手が参加。全ての合計で海外からの訪問者は約1万人と、夏季大会の5分の1程度の規模でしかない。
古くはアルプスのサンモリッツ、シャモニー、モンブランなどの山村や、ザルツブルク(オーストリア)、レークプラシッド(アメリカ)、長野(日本)程度の山岳都市で開催されたが、最近はトリノ(イタリア)、ソルトレイクシティ(アメリカ)、バンクーバー(カナダ)、北京(中国)などの大都市で開かれ、今年のミラノのように大都市プラス山岳地の広域開催が認められるようにもなり、夏季の競技も冬季五輪での開催が可能となっている。
そこで夏の競技の一部を冬に移し、夏季五輪をスリム化……というのだが、このアイデアは何も新しいものではなく、サマランチIOC会長時代(1980〜2001)にも、同様の意見を主張した人物がいた。
それはIOC委員として副会長まで務めた^谷千春氏(現在はIOC名誉委員)。小生が雑誌『世界』(岩波書店・01年1月号)でIOC委員時代の彼と対談したときも、「バスケットボールやバレーボールなど、インドア競技の冬の大会への移行」を何度かサマランチ会長に進言。
「一部の委員は同じ様な考えをもっていましたが、サマランチ会長は、オリンピック憲章で冬の大会は雪と氷の上でやるスポーツと規定されているから、と否定的でした」と語った。
^谷氏の意見は、夏の大会の競技数を減らしたところへ新たな競技や種目を加えるというもので、結局それは夏の大会の肥大化阻止につながらず、オリンピック全体の拡大路線であるように思えた。しかし^谷氏は……
「単に拡大すればいいと言ってるんじゃありません。オリンピックとは単なるショーではなく、やはり世界平和構築のための人類の祭典であり、ある程度それに貢献できる組織団体であります。それなら、できるだけ多くのスポーツを入れて、地球上の地域性なども加味して、本当にグローバルに、多くの人々の関心が向くようにすべきです」
^谷氏の意見は、単なる理想論とも言えるかもしれない。またIOCの商業主義のさらなる拡大を隠蔽する意見だと聞こえなくもない。
冬季オリンピック競技は「雪と氷の上の競技」というオリンピック憲章を盾に、サマランチ会長が^谷氏の意見を完全否定したのも、五輪を大きく商業主義に舵を切った張本人として、さらなる批判を浴びたくなかったのかもしれない。
が、今回の「夏の競技の一部を冬の大会へ移行する案」は、オリンピック憲章の改訂も伴って実行される。そうなれば、^谷氏が言った「屋内競技の冬季五輪への移行」だけでは済まなくなるはずだ。
確かに、バスケットボールやバレーボール、ハンドボールやバドミントン、卓球などは屋内球技として冬季に行ってもおかしくはない。
が、「雪上と氷上」の箍を外して「冬季にも可能な屋内競技」となると、ボクシング、レスリング、フェンシング、柔道、テコンドーなどの格闘技や、体操、新体操、トランポリン、さらに、重量挙げ、ブレイキン、スポーツクライミングなど、数多くの競技の冬季五輪への移行が可能と考えられる。
今回IOCが検討している冬季五輪へ移行する夏の競技は6月に発表され、あくまでも「夏季五輪の縮小が目的」だという。
が、夏季大会への参加を熱望している競技は数多く、"空きスペース"が生じれば、それらは当然五輪競技への採用を訴えるだろう。
たとえばロス五輪で特別競技として実施されるスカッシュ、野球・ソフトボール、クリケット、フラッグ・フットボール、ラクロスや、東京大会での空手やサーフィンなどは、正式競技への昇格を望んでいる。
さらにライフセービング、インラインスケート、フライングディスク、綱引き、相撲、スカイダイビング、ビーチ・サッカー、ビーチ・ハンドボール……等々、多種多様な競技や種目も"空きスペース"への参入を主張するに違いない。
それに、27年サウジアラビアのリヤドで開催される予定だった「第1回オリンピックeスポーツ大会」は延期となったが、いずれ各種eスポーツの五輪参加も課題となり、ドローンの操縦を競う「ドローン・スポーツ」も、新競技として名乗りを上げそうだ。
結局オリンピックの拡大は、時代の必然と言えるかもしれない。先の^谷氏の発言は、こう続く。
「オリンピック競技にしてほしいと言ってるスポーツを半永久的に排除し続けることが得策なのか、はなはだ疑問です」
いまオリンピックの開催地にはインドやASEAN諸国、中央アジアやアラブ諸国など、多くの都市(国)が手を上げている。
もしも^谷氏の言うように、オリンピックが「世界平和構築のための人類の平和の祭典」であることを推進できるなら、そしてそれが単なる商業(金儲け)主義の方便ではないことを示せるなら、オリンピックの拡大もけっして悪いことではなく、むしろ推進すべきはずだ。
その是非の一端は、本紙の発売時も継続している「国連の五輪休戦決議」が有効に機能しているか否かでも判断できるに違いない。
(結局オリンピックは、"休戦"とは、まったく無縁に実施される、単なる国際スポーツ大会だったようですが……)
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