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今、スポーツの話題は、メキシコ・アメリカ・カナダで開催されているサッカーの北中米大会で持ち切りだ。
が、その模様は日本代表の結果や、アメリカのイラン排除としか言えない非スポーツ的・独善的態度とともに、次号で詳しく報告することにして、今回は5月24日にラスベガスのリゾート・ワールド特設会場で行われた「エンハンスト・ゲームズ」を取りあげる。
「エンハンスト(Enhanced)」とは「強化された」「高揚させられた」という意味で、エンハンスト・ゲームズは、IOC(国際オリンピック委員会)やIF(国際競技連盟)、WADA(世界ドーピング防止機構)が禁止している薬物などの使用をすべて許可し、人間の記録の限界を試すことを目指して開催された"スポーツ大会"だった。
さすがにこのような大会の開催に、WADAは大反対した。が、それは後述するとして、まず大会の概要を紹介しよう。
実施された競技は、陸上競技(男女100m走、女子100mハードル、男子110mハードル)、水泳(男女50m・100m自由形とバタフライ)、そして重量挙げ(男女スナッチとクリーン&ジャーク)の3競技8種目。
それらに42人の選手が参加し、そのうち29人がオリンピック出場経験者だった。
もちろん薬物使用(ドーピング)が認められたことでも話題を呼んだが、それ以上に注目されたのは超高額の賞金。各種目の優勝者には25万ドル(約4千万円)、さらに非公認ながら世界記録を上回れば最高100万ドル(約1億6千万円)のボーナスが用意された。
また、この大会を提唱し開催を主導したのはオーストラリアの実業家アーロン・デスーザだったが、トランプ大統領の長男が資金面で多額の援助を行ったことも話題となった。
大会の結果、世界記録を上回ったのはただ一つ。ギリシアのクリスチャン・ゴロメエフ選手(32歳)が競泳男子50m自由形で20秒81を記録し、オーストラリアのキャメロン・マケボイ選手が持つ20秒88の世界記録を更新する「非公認世界記録」を樹立した。
ゴロメエフ選手は24年パリ五輪5位、19年世界水泳2位の実力者で、自己ベストも20秒89と世界記録に100分の1秒差まで迫っていた。
しかし今回は、オリンピックや世界水泳では禁止されているランニング型の上半身まで覆うスイムスーツを着用しての記録だったため、この記録が薬物解禁の成果なのか、スイムスーツの効果なのか、人間の限界を示した記録なのかは判然としなかった。結局、ゴロメエフ選手だけが賞金とボーナスを合わせ約2億円を獲得する結果となった。
他の競技でも、興奮剤によって世界記録を超える記録が続出すると期待された重量挙げを含め、特筆すべき記録は生まれず、主催者の狙いだった「非公認世界記録の続出」は期待外れに終わった。
大会主催者は、禁止薬物の使用は医師の監督下で安全性を確認したうえで実施したと説明したが、WADAは「危険で無責任な人体実験」と強く批判。また、薬物の人体への影響を調べるには長期間の追跡調査が必要であり、その体制も整えられていないと指摘した。
さらにWADAは、この大会に対して反対声明や中止勧告を出さなかったUSADA(米国ドーピング防止機構)も批判した(トランプ大統領の長男が大会に関わっていたことへの忖度だったのか……)。
この大会が来年以降も続けられるかどうかは判然としない(主催者は継続を表明している)。しかし、いかにもアメリカらしい大会と言える面もある。それは、シルヴェスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーといったハリウッド俳優、さらにはハルク・ホーガンなどのプロレスラーの肉体を見れば想像がつくだろう。
彼らが筋肉増強剤や多種多様なサプリメントを使用していることは周知の事実であり、それらの薬剤使用が若年層へ広がることは、アメリカでしばしば社会問題となってきた。
その象徴的な出来事が、1998年にセントルイス・カージナルスのマーク・マグワイア選手がシーズン70本塁打を放ち、ベーブ・ルースやロジャー・マリスの記録を更新したときだった。
マグワイア選手は男性ホルモンの一種の使用を疑われたが、それはIOCでは禁止されていてもMLBでは禁止されておらず、そのことが他の選手や若年層へ広がる一因となった。
さらに筋肉増強剤アナボリック・ステロイドの使用も明らかとなり、その影響が若い世代に及んだことから、引退後のマグワイア選手自身も薬物使用を後悔し、若い選手に薬物へ手を出さないよう呼びかけている。
このほか、メジャーリーグやNFLでも筋肉増強剤の使用が発覚するたびに、子供や若年層への悪影響が社会問題となってきた。
そもそもWADAやIOCが薬物を禁止している最大の理由は、健康を害する危険性があるからであり、その悪影響はとくに若年層ほど大きい。
この単純な事実を踏まえれば、高額賞金で選手を集め、あらゆる薬物使用を解禁するスポーツ大会が、いかに問題を抱えているかは明らかだ。
そんな若者に強い悪影響を及ぼしかねない大会に、アメリカ大統領の親族までが関わっているという事実だけでも、現在のアメリカという国が、いかに病んでいるかを示していると言えるだろう。
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