コラム「ノンジャンル」
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掲載日2004-05-03
この原稿は、京都市広報紙「市民しんぶん」(2002年6月)に寄稿したものです。
「私の京都」

 首都圏で仕事をしていて、京都の出身だというと、必ず案内や紹介を求められる。
 観光客の少ない社寺、安くて居心地のいい宿、一見(いちげん)でも入れる料亭、センスのいい居酒屋・・・などなど。

 ところが、こっちは「灯台もと暗し」の典型で、餓鬼のころ幼稚園へ通うために知恩院を通り抜け、建仁寺で草野球に興じたことはあっても、三千院にも銀閣寺にも行ったことがない。苔寺や東寺には子供のころに連れられたらしいが記憶にない。金閣寺にも、何年か前に初めて行ったくらいで、予備校時代まで京都に二十年近く暮らしたといっても、京都のことは何も知らない。

 それでも、自分が京都の出身だと強く自覚しているのは、たぶん鴨川の河原を何度も歩いたからだろう。とくに高校時代と予備校時代には、よく歩いた。
「ここは京都でいちばん気持ちのいいところですよ」と教えてくれた高校教師と話をしながら、あるいは上賀茂神社の近くに住んでいた恋人と肩を並べて・・・。

 比叡山を頂点になだらかに続く東山連峰を見ながら南へ、御薗橋、上賀茂橋、北山大橋、出雲路橋、葵橋、出町橋・・・と、加茂川にかかる橋の下を次々とくぐり抜け、植物園や糺の森の対岸を通り過ぎ、荒神橋、丸太町橋、二条大橋、御池大橋、三条大橋と歩き続けると、それまで緑の多かった風景がコンクリートのビル街へと徐々に変わり、自宅のある四条大橋で河原から道路に上がる。
 それは、「京都」という空気を腹一杯に吸い込める道筋だったように思える。

 義仲が攻め上ったときも、応仁の乱のときも、京都は戦乱に見舞われ、焼け野原になった。そして蛤御門の変と明治の文明開化で、「京都は京都でなくなった」と荷風が書き残すほど、京都の風景は一変した。
 しかし誰がなんといおうと、京都はいまも京都であり続けている。それは、三方を囲む緑の山と加茂川(鴨川)のおかげに違いない。

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