コラム「ノンジャンル」
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掲載日2006-02-06

雑誌『室内』(工作社)が休刊するとの挨拶状を受け取った。山本夏彦先生が編集長をされていたインテリア雑誌で、落ち着いたレイアウトと充実した執筆陣で、雑誌編集のファンダメンタルともいうべき存在だった。小生も、何度か執筆させていただいたが、じつは10年ほど前、いま住んでいる家を新築した際には、山本先生から「その様子を逐一原稿に書いてくださいよ」といわれ、土地探しから完成入居までの様子を『今どき新築太平記』というタイトルで、1年以上に渡って書かせていただいた。中味が少々生々しくなることが予想されたので、匿名(ペンネーム)を使ったが、途中から工事関係者にばれてしまい(読者にはばれなかったが)「施主の気持ちがよくわかる」と妙なお誉めをいただいた。そんな思い出のある雑誌が休刊するのは残念だが、この機会に『百家争鳴』というコラム企画に寄稿した原稿を“蔵出し”します。2001年の12月前後の号(あやふやでスイマセン)に書いたもので、中味はスポーツ的ですが、狙いはそうではないので“ノンジャンル”で蔵出しします。

「若い国」アメリカ

 スポーツにも、テロは存在する。
 サッカーやラグビーでは、レフェリーの見ていないところで相手選手を殴ったり、偶然に見せかけて肘撃ちを喰らわせたりしている。それは明らかなテロ行為である。野球の投手が打者の身体めがけてボールを投げるのも、一種のテロ行為といえるだろう。

 テロを受けた選手は、報復に走る。
 殴られた選手は殴り返し、ボールをぶつけられた打者はマウンドに駆け寄って投手につかみかかる。
 もっとも、昨今のサッカーやラグビーでは、報復は割の合わない行為となった。かつては、殴り合うほどの荒々しい行為が喝采を浴び、その精神が称賛されることも少なくなかった。が、その様相が一変した。

 相手が先に手を出した、自分の行為は正当防衛――などと主張しても、レフェリーに受け入れられることはなく、報復した選手も、テロ行為をおこなった選手とともに、退場処分となる。いや、テロ行為が見落とされ、報復行為のみが罰せられるケースも少なくない。

 そういった事件が何度か続いた結果、サッカーやラグビーでの暴力行為や乱闘行為は減少した。選手は、少々殴られても報復に走らず、レフェリーやタッチジャッジに訴えるようになった。あるいは少しばかり大袈裟に倒れて、テロ行為のあったことをアピールするようになった。または、我慢をするようにもなった。

 テロもどきの挑発に乗って報復に走った結果、それが見つかって退場になったりすると、「馬鹿な選手」「未熟な選手」と批判されるようにもなった。テロ行為や報復行為を行う選手は所詮二流であり、報復よりも我慢が美徳であると考えられるようにもなってきた。これは、あきらかに進歩といえる。

 一方、野球の世界では事情が少々異なる。
 デッドボールをぶつけた投手に対して報復に走った打者には、退場処分が科せられる。が、アメリカ大リーグでは、その報復行為が当然視されている。そこから発展した乱闘も、ショウ的要素として喝采を浴びる。
 味方チームの5番打者が死球を受けたら、敵チームの5番打者にやり返す。報復行為から乱闘に発展したら、ベンチやブルペンにいる全選手が戦場に駆けつける。残っていると非難される。罰金が科されるともいう。それがアメリカ式のやり方といえなくもない。

 そんななかで、今シーズン大リーグで活躍したイチローも新庄も、死球を浴びても報復には走らなかった。
 身体の大きな相手投手と喧嘩をしても勝てそうにない、という事情があったにせよ、ボールをぶつけられたあと、黙して淡々と一塁に歩く姿は、大人だった。報復に走らないからといって、けっして弱々しくも見えず、むしろ、力強さが感じられ、迫力にもあふれていた。アメリカの観客も、そのように感じたのではないだろうか?

 大リーグの選手でも、一流選手がテロや報復や乱闘を引き起こすことはめったにない。 そういう事実が積み重ねられ続ければ、アメリカでも報復が完全に否定するときが訪れるかもしれない・・・というのは、見通しが甘すぎるだろうか?

 野球をはじめ、バスケットボール、アメリカンフットボール、アイスホッケーなど、アメリカのスポーツは、アメリカを中心に組織され、アメリカのリーグに加わらなければ頂点を極められないシステムになっている。
 サッカーやラグビーなど、ヨーロッパ(主にイギリス)で発祥したスポーツは、ブラジルやアルゼンチン、ニュージーランドや南アフリカでも「世界一」を極めることができる。

 両者の違いは、今日「グローバリゼーション」と呼ばれるものの真相を映し出しているようにも思える。
 スポーツの出来事を、そのまま国際社会に当てはめることはできないだろう。が、アメリカとは、つくづく「若い国」だと思うほかない。

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