コラム「ノンジャンル」
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掲載日2004-06-14

 この原稿は『新潮45』(1994年7月号)に寄稿したものです。今回更新した「スポーツ・コラム」に、「男」(と「F1グランプリ」)についての原稿を「蔵出し」したので、ここでは、「男と女」についての原稿を蔵出しします。

女が動く時代、男は思索せよ

 かつて男は<生き甲斐>を求めていた。そして女は<幸せ>を求めていた。その理由は判然としている。女は子供を産むが、男は産まない。それだけのことである。
 産まれた子供の顔が似ているといっても、男にはそれが自分の子供であるという確証はない。すなわち女には、生まれ持った<生き甲斐>がある。そこで<生き甲斐>の先に存在する<幸せ>を希求する心理を働かせることができる。が、男には生まれ持った<生き甲斐>など存在しない、そのため、<幸せ>などという遠くにあるものを意識する以前に、まず<生き甲斐>を見つけださなければならない。

 かつて男たちは、さまざまな<生き甲斐>を見つけだした。権力を握り、闘いに明け暮れ、土地を奪い、金品宝物を集め、城をつくり、人々を支配し、女を我が物にし、神の存在や宇宙の構造に思いを馳せ、歌い、踊り、走り、跳び、詩を書き、音楽を奏で、絵を描き、料理や酒をつくり、冒険に旅立ち・・・。<生き甲斐>となる対象物を得ないかぎり生きているという実感を得られない男は、政治、経済、宗教、社会制度、学問、芸術、スポーツ・・・等々、多種多様な文化をつくりあげた。
 文化とは人間が生きるうえでの装飾品のことである。それはけっして必需品ではない。したがって、洋の東西を問わず人間という種の保存にとっては性的に必ずしも必需品とはいえない男たちが、必然的に文化を担いつづけ、男文化と男社会を築きあげたのだった。

 ところが近代以降、女も<生き甲斐>を求めるようになった。というより、子供を産むことが<生き甲斐>とは思えなくなった女たちが増えた。あるいは子供を産むという<生き甲斐>だけでは満足できない女たちが増えた。これもまた必然的結果である。かつては男の装飾品であった政治、経済、社会制度といった文化が、文明の発達した近代以降になると人間が社会を営むうえでの必需品となった。ならば種の保存のうえで本質的に必需品である女たちがそれらの文化行為に進出するのも当然というべきだろう。

 さらに、近代以降も人生の装飾品でありつづけた宗教、学問、芸術、スポーツといった文化への女たちの進出も顕著になった。それもまた当然の結果というほかない。男はそれらの文化に<生き甲斐>を見出している。人生の装飾品であるはずの文化も、男にとっては必需品に近い。が、肉体的に<生き甲斐>を内蔵し、本質的に<幸せ>を希求している女は、装飾品である文化に対してどこまでも装飾品として接することができる。歴史的に見れば人生の装飾品としての文化を産みだしたのは男だが、その装飾品としての価値をより豊かに発展させることができるのは、おそらく女にちがいない。

 もちろんそういった事情は、近代文明による経済の発展(飢餓の克服と余暇の創出)によって、女が子供を産み育てるという行為に専念しなくてもよくなった結果といえる。かくて、男社会と男文化への女による進出が開始され、進行した。この現象は今日もまだ未完で、今後もより激しく進行するだろう。
 そこで男文化と男社会の防衛不可能なることを悟った男たちは、<女の生き甲斐>と<女の幸せ>に目を向けるようになった。出産に立ち合い、子育てを始め、文化としての料理ではない日々の糧としての食事をつくるために厨房に入り、「主夫」という言葉までうまれるようになった。加山雄三は無意識のうちに時代を先取りして、臆面もなく♪僕は幸せだなあ・・・と歌ったが(その作詞は岩谷時子で、女が男に押しつけたものかもしれないが)、いまに『男の幸せ』などと題した演歌も歌われるようになるかもしれない。

 そうなると人間社会は、<女の幸せ>と<男の幸せ>に満たされ、幸せいっぱい夢いっぱい・・・にはならないだろう。
 たとえ出産に立ち会ったところで、<女の生き甲斐>を男が得られるはずもなく、いくら「主夫」を自称したところで、基本的に<生き甲斐>の欠如している男は<女の幸せ>の猿真似しかできない。ならば現代の男は、男社会の崩壊のなかでどう生きればいいのだろうか。
 方法はいくつかある。性転換して女になったり、ホモ・セクシュアルになるというのも、そこから新たな文化を創出する可能性はあるだろう。が、そうはなれない男たちは、とりあえず女のやり方をじっと見つめればいいのではないだろうか。
 これまで男がつくりあげた文化は、すばらしいものも少なくなかったが、欠陥も多かった。その男文化と男社会を、女たちはどのように改造するのか。これから先しばらくのあいだ、それをじっくりながめ、見つめて、女のやる成功や失敗からさまざまなことを学べばいい。そうすれば(何年、何十年、何百年先になるかは知らないが)やがてふたたび訪れるにちがいない「男の出番」のときに、よりすばらしい男となって、よりすばらしい文化を築くことができるにちがいない。

 いま男は、時代錯誤の過去の論理に固執したり、誰も断定できないはずの未来に対して軽々しい予測を口にしたりするのではなく、じっくりと思索する時代にある、とわたしは思っている。女が動く。男はそれを見つめて考える。そこで、とりあえず(この国が率先して)国会議員や一流企業の社長などを、すべて女にゆずってみては・・・と本気で考えているのである。

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