コラム「ノンジャンル編」
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掲載日2007-11-07

この書評原稿は、月刊『現代』(講談社)2007年7月号に寄稿したものです。『興亡の世界史』シリーズは現在定期購読し、愛読しているもので(別に講談社にゴマするわけではありませんが・笑)従来の「世界史」とはまったく異なる視点を与えてくれる素晴らしいシリーズだと思います。というわけで“蔵出し”します。

現代と未来の世界を考えるうえでの「真の世界史情報」
(井野瀬久美恵・著『興亡の世界史16 大英帝国という経験』)

BOOK
井野瀬久美恵『興亡の世界史16大英帝国という経験』(講談社)

井野瀬久美恵『興亡の世界史16大英帝国という経験』(講談社)

 面白くて、ためになる。一冊の本が与えてくれる満足としては、この二点が満たされていれば十分といえる。
本書で六冊目となるシリーズ『興亡の世界史全21巻』は、これまで上梓されたどの巻も、その単純にして十分な満足を与えてくれる見事な内容だった。そして本書『大英帝国という経験』は、まさに本シリーズの核心ともいえる凝縮された内容に仕上がっている。

 我々がこれまで学んだ世界史は、ほとんどが「世界史」とは名ばかりで、たかだか百年から二百年前に認知された現在につながる「国家」を軸にした「各国別政治史」にすぎなかった。それに対して本シリーズは、まさに「世界規模の歴史」が描き出されている。

 世界を舞台に興亡を繰り返す主役は、常に帝国である。なかでも自他共に帝国であると認識し、最も最近まで実在していた帝国が、本書のテーマ「大英帝国」である。

 アレキサンドロスの征服や、遊牧民との関わりでとらえた唐帝国、さらにイスラーム帝国等を描いた他の巻も、帝国という複雑な「生き物」の形状と構造と運動が、常に現代という時代との関わりを視野に入れるなかで記述され、新鮮な驚きに充ち満ちていた。

 が、本巻の大英帝国では、資料の豊富さに加えて著者の井野瀬久美恵が女性ならではの柔軟な視点と分析力を発揮し、さらに面白く、さらにためになる一書となった。

 早くして寡婦となりながらも、旧来の《政治権力の主体》としての君主(皇室)を《親しみや敬愛の対象へと重心を移し、国民統合の象徴的存在へと変》えることに成功させた「帝国の母」ヴィクトリア女王から、「イラク建国の母」といわれ、最後に大英帝国に裏切られて孤独な死を迎えるガードルード・ベルに至るまで、じつに数多くの有名無名の女性が登場するが、それだけでも、著者の女性としての視点は「世界史」にこれほど多くの女性が深く関わっていたのかという驚きを(評者のようなバカな男に)与えてくれる。

 帝国とは、《植民地の実態や統治の現実とは別に、(略)想像やイメージの問題もあった》わけで、政治や経済や植民地経営の推移を追うだけでは、その形状と構造と運動を読み解くことなどできない。そこで、帝国に出現したあらゆる表象が、まるで「帝国博覧会」のように陳列され、分析される。

 たとえば、絵画(港で子供に向かって海の彼方=植民地を指さす男の絵)や肖像画(ヴィクトリア女王の描かれ方)といったヴィジュアル情報に対する分析はもちろん、嗜好品の推移(コーヒーやココアや紅茶)、流行した日用品(石鹸)、新たな流行(展覧会、植物園、ツアー旅行、ミュージックホール、フーリガン)……等々、帝国から湧き出すようにして帝国を彩った様々なモノやデキゴトが紹介される。

 その細かく丁寧な作業も、女性ならではといえるかどうかはさておき、見事というほかない。そして、それらのモノやデキゴトが、リゾーム状に絡み合って立ちあがった立体モザイクとしての帝国のなかで、人々が動き、国が動き、やがて、複雑にもつれた巨大なリゾームに絡め取られて、動けなくなる。

 アメリカという広大な植民地を失いながらも、オーストラリア、カナダ、さらにインドという「新たな帝国の一員」を獲得して発展し、奴隷貿易で巨万の富を築いたあとには、掌を返して奴隷解放を旗印に世界へ羽ばたき、しかし、南アフリカで、アフガンで、スーダンで、闘いに敗れ、戦後処理に失敗し、パレスチナとイスラエルを巡る「三枚舌外交」で禍根を残し……、その崩れゆく帝国の姿は、まさに巨大恐竜の死に絶える様に思える。

 しかし恐竜とは異なり、死に絶えることのできない国家は、いまも帝国時代の過去の清算(奴隷貿易に対する謝罪や、黒人イギリス人の増加等々)に悩まされ、もがいている。

 次は「アメリカ帝国」が…、そして「中華帝国」が…と推測するのは簡単だが、帝国に代わる過去に存在しない「平和の方法」を考えるうえでも、本書と本シリーズに記された過去の帝国の実像と現状が、多くの人々の共有の知識となってほしいと思う。

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二代目市川亀治郎さん(現・四代目市川猿之助)――伝統とは「変える力」

大学の教壇に立って……〜ジャーナリズムとアカデミズム

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「新道」という名前が消える寂しさ

孤立化、個別化する社会のあり方に警告(杉本厚夫『「かくれんぼ」ができない子どもたち』ミネルヴァ書房)

女心・男心…人間を描くため、肉体を描ききった本物の作家(虫明亜呂無『パスキンの女たち』清流出版)

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犬好き男の愛猫記

大魔神を巡る見事な「知的探検の旅」/小野俊太郎・著『大魔神の精神史』(角川ONEテーマ21)

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書評『茶の世界史』/茶が映し出す過去の世界史&茶が匂わせる未来社会

思い出すのは仕事をしている姿

脳出血と恐怖心

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「劣等感・コンプレックス」とは、本当はどんなものなのか

あけましておめでとうございます

脳出血から復活できた理由(わけ)

「何か」を表現しようとする究極の本能

天職人〜あとがき

そばは京都にかぎる

総選挙の行方とスポーツ界

小泉首相の「趣味」と「文化政策」

行きつけの店は恋人に似てる?

アイ・ラヴ・サッポロ!アイ・ラヴ・ホッカイドウ!

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煩悩の世界史〜『要約世界文学全集』(木原武一・著/新潮社)

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個人的パラダイム・シフトに導かれた三冊

ゴシック・万博・ストリップ・吉本…を読む

現代と未来の世界を考えるうえでの「真の世界史情報」(井野瀬久美恵・著『興亡の世界史16 大英帝国という経験』)

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第3弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第2弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第1弾!

知識や情報なんて、ないほうがいい

現代日本人必読の一冊

タクシーと自家用車の違い

「天才」って何? ――まえがきにかえて

「ある女の一生」

「戦争映画」が好きな理由(わけ)

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地獄八景万之丞乃戯(じごくばっけいまんのじょうのたわむれ)

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読書日記〜稲垣足穂から梅原猛まで

アッピア街道に乾杯(ブリンディシ)!

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権力志向者がジャーナリストになる危険性――魚住昭『渡邉恒雄 メディアと権力』講談社

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お薦めの本(2003年夏〜2004年春)

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吉本興業は匈奴である『わらわしたい――竹中版正調よしもと林正之助伝』竹中功・著/河出書房新社

虚実の皮膜――『イッセー尾形の都市カタログPART2』イッセー尾形/森田祐三・共著 早川書房・刊

胡散臭さ礼賛――竹内久美子『賭博と国家と男と女』(日本経済新聞社)

衝撃的な笑劇――レイ・クーニー『笑劇集』劇書房

翻訳って何?――『翻訳史のプロムナード』(辻由美・著/みすず書房・刊)

脳細胞の組み替え――『世界史の誕生』岡田英弘・著/筑摩書房(現・ちくま文庫)

長老の話――堀田善衛・著『めぐりあいし人びと』を読んで

古典の楽しさ

ドリトル先生 不思議な本

京都が消える

嬉しいこと――喜びは常に過去のもの

野村万之丞 ラジカルな伝統継承者(2)

野村万之丞 ラジカルな伝統継承者(1)

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第5回=最終回)

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第4回)

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先達はあらまほしきか?

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パチンコと飢餓海峡

最近の映画はつまらない?いや、やっぱり、映画はおもしろい?

神道、天皇、韓国・・・を読む。

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京の祇園の極私的元服之儀

コースケ(野村万之丞)の遺言

ミレニアム歳末読書日記 楽しい世紀末

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親父ゆずりの数学好き

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夏休み読書日記/スポーツ・身体・ジャーナリズム

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「情報過多時代」の楽しみ方

内面より外面

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