コラム「ノンジャンル」
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掲載日2005-05-16

前回、前々回に引き続き、辞書マニアのタマキがお贈りするジテンに関するコラムの“蔵出し”第3回です。中味は、10年前に講談社の『月刊現代』(1995年7月号)に寄稿した文章。どうぞ、お楽しみください。

事典・辞典・字典・ジテンする楽しみ(第3回)

 『英語スラング辞典』(リチャード・スピアーズ著/研究社)には、<funny bit 女性性器[英俗1800年代]>とか、<gay house 売春宿[英米俗1800年代から1900年代>などと、いま口にすればセクハラやゲイ差別もどきで有罪判決間違いなしのスラングが、流行した年代とともに記されている。(前回紹介した)『当世アメリカ・タブー語事典』と併読すると、時代の変化がわかっておもしろい。

 パロディックでも悪魔的でもなく、(おそらく)事実のみが列挙されているにもかかわらず、思わず爆笑させられる事典もある。
 『スーパー・トリビア事典』(フレッド・L・ワース著/研究社)が、それである。
 トリビアとは「なんら本質にせまることない、どうでもいいような、こまごまとしたことがら」のこと(腰巻きに書かれた片岡義男氏の推薦文より)で、本書には――

 <宇宙飛行士のアラン・シェパードが月でゴルフをしたときのクラブは6番アイアン>
 <フランク・シナトラがマリリン・モンローに贈った犬の名前はマフィア>
 <アメリカン・エクスプレスのコマーシャルに出てくる有名人が持っているカードの番号は、すべて、040 072 493 6 100AX である>
 <オスカー(アカデミー賞)の像は高さ34.3センチ、重さ5キロ、原価は約350ドル。不要ならば主催者である映画芸術科学アカデミーが10ドルで買い戻す>
 ――などという「どうでもいいこと」が山ほど書かれている(註・TV番組の『トリビアの泉』が生まれたのは、この本がネタ本になったのでは?)。

 『英語雑学事典』(リチャード・バーナム著/研究社)は、爆笑はしないが、驚き、納得させられる「雑学集」。たとえば――
 <baseball アブナー・ダブルデー(1819〜93)が1839年にニューヨーク州のクーパース・タウンで野球を発明したというのは、アメリカ人の意識に、信仰といってもいいほど、しっかり定着しており、これにけちをつけることは、異端として、非難されかねない。しかし、これは歴史的事実からほど遠い。この説はむしろ、スポーツ用品会社スポルディング社の社長が任命した委員会によって勝手に決定されてしまったものである(以下略すが、「勝手に決定され」た経緯と、1839年以前の野球の歴史が簡単に記されている)>

 ほかにも、<ヘミングウェイ>の項目には、<彼が(略)軍隊に、兵士あるいは将校として勤務した事実はない>とか、<イスタンブール>の項目には、<この言葉はコンスタンチノープルの「新しい」名前というわけではない。トルコ人自身は1453年にこの都市をイスタンブールと呼び始め(略)、外国人だけがコンスタンチノープルという名称を使った>とある。
 いわば「常識のウソ辞典」で、目からウロコが連続して落ちるのは心地良いものである。

 ビアスの『悪魔の辞典』とはまったく種類のちがう「同音異義本」に、『悪魔の事典』(フレッド・ゲティングス著/青土社)がある。
 これは、<アラザデル><アシエル><サタン><メフィストフェレス><メドゥーサ>といった実在した(?)悪魔と、悪魔に関する用語を集めた辞典。悪魔学に疎いわたしには、少々専門的すぎて、同じ著者の『オカルトの事典』(青土社)のほうがおもしろい。これには、<オーム><カルマ><チャクラ><グル><マハートーマ(大師)>といった、最近流行した(?)サンスクリット語の解説がでている。

 『世界オカルト事典』(サラ・リトヴィノフ著/荒俣宏・監修/講談社)も同種の事典だが、前者が中世以前のオカルティズムの解説に重点を置いているのに対して、後者は最近の超常現象に関する記述が多い。

 この2冊に加えて、『世界宗教大事典』(山折哲雄・監修/平凡社)、『世界宗教事典』(リチャード・ケネディ著/教文館)、『岩波仏教辞典』(中村元ほか編/岩波書店)あたりを揃えていると、今年(1995年)最大の事件に関する知識は、ワイドショウに出演している文化人以上に身につけることができる。

 ちなみに『世界宗教大事典』の<カルト>の項目には、ヨーロッパの<フロンティア>であるアメリカでカルトの生まれやすい理由が述べられたあと、次のような鋭い指摘が記されている。
 <見方によってはピルグリム・ファーザーズも、モルモン教徒も、カルトの外観を呈した。(略)アメリカには、いま大小あわせて約300のカルトがあり、信者は300万人にのぼると推定される。彼らの渇望するものを汲み上げ、その精神的エネルギーを堅実な方向に発展させることは、アメリカ文化のかかえる重要な課題であろう>

 日本も、アジアのフロンティア(辺境)なのだから、奈良、平安、鎌倉以来現代まで、カルトが生まれつづけている、といえるのだろうか?
 『アメリカ新語辞典』(高橋義信・著/研究社)には、“cult of personality”という言葉が「個人崇拝」と紹介され、かつてのソビエト連邦におけるスターリン批判の運動が“anti-personality cult drive”といわれた、と記されている。カルトと個人崇拝は表裏一体なのだ。

(以下、次回更新時を御期待ください)

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