コラム「ノンジャンル」
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掲載日2004-11-15

この原稿は『数学セミナー』(1991年8月号)に寄稿したものですが、これを“蔵出し”するのは、親父の七回忌が近づいた、という個人的事情によるものです。「プライベート・ホームページ」ならではの企画ということで、御容赦ください(笑)。

親父ゆずりの数学好き

 わたしは数学が大好き、などというと、きっと怪訝な顔で怪しまれるにちがいない。その場に若い女性がいたら、まちがいなく「ウッソー」と黄色い悲鳴を浴びせられるだろう。数学とは、だいたい忌み嫌われるもの、と相場が決まっている。
  しかし、正直いって、わたしは数学が大好きなのである。

 それは、どうも父親の影響といえそうだ。
 電器屋をやっている親父は、いろんな事情から夜間中学しか卒業することができなかった。が、勉強は嫌いではなかったようで、テレビラジオの修理や電気工事をするだけなら不必要と思われるオームの法則やフレミングの法則の書かれた本を、よく読んでいた。そして夕食のときなど、手の指をピストルのよう突き出し、その原理を説明してくれた。

 小学生のわたしには理解不能だったが、晩酌で赤くなった顔を火照らせながら、「どうや、電気のことが数学で全部説明できるんやぞ。凄いもんやろ」などといわれると、何やらわけのわからないまま、ビリビリする電気と足し算掛け算が関係あるなんて、それは凄いもんや、と感心したことをいまも記憶している。

 そんな父親が、わたしをそろばん塾にかよわせたのは、電器屋が電気技師と電気器具販売商とを足し合わせたもの、と考えられていた時代ゆえのことと思われる(いまでは電器屋は、完全に経済人すなわち「そろばんずく」だけの世界になってしまった)が、現在のわたしにとっては、親父ゆずりの数学好きも、そろばん塾で身につけた計算のテクニックも、どちらもきわめて有効に作用している。

 プロ野球の記事を書くときには、選手の打率やチームの勝率の計算など、そろばん一級の免状を持っているおかげで、かなりの程度まで暗算でできる。それに、SF小説や科学に関する本を読むときの基礎知識として、親父が「凄いもんや」といった数学も役立っている。

 もっとも、わたしは、数学(算数)が世の中の実用に役立つという考え方があまり好きではなく、最近小学一年生の娘の授業参観に足を運んだ折り、担任の教師が、「スーパーでお買い物をするときなど、算数を知っていないと不便ですから、みなさん、がんばって勉強しましょうね」というのを聞いたときは、おおいに反論したくなった。そして実際、家に帰ってきた娘に向かって、「算数は買い物をするために勉強をするもんやない。おもろいから勉強するもんなんや」と、強くいっておいた。

 もちろん娘はちんぷんかんぷんの顔をしていたが、今度わたしの親父(すなわち娘の祖父)の家に遊びに行けば、わけがわからないなりにも少しはわたしの口にした意味をわかってくれるのではないか、と思っている。
 というのは、今年72歳になった親父は、電気工事士や無線通信士といった免許を次々と取得することを趣味とするようになり、そのため晩飯が済むと、ウイスキーのグラスを傾けながら、高校の数Tや数Uの教科書を広げ、「おい、この三次方程式を解いてみろ」などと、からんでくるようになったからである。

 もちろん親父ゆずりの数学好きであるわたしは、御相伴にあずかりながらパズルを解く感覚で御相手をする。だから娘もいずれは数学が好きに・・・。いや、それとも、女房や母親のように、「悪い酒やなあ・・・」と思うのだろうか。

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