コラム「ノンジャンル」
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掲載日2004-12-27

この原稿は、今年6月に亡くなった野村万之丞の追悼本として伊藤美露さんの写真を中心に出版された『萬歳楽 野村万之丞 作品写真集』(日本カメラ社)に寄稿したものです。小生にとっての2004年最重大の事件について書いた原稿を、今年最後の更新で“蔵出し”します。この本には、ほかにも三枝成彰さん、城之内ミサさん、春風ひとみさん、松坂慶子さん、麿赤兒さん・・・等々、数多くの方々が野村万之丞に言葉を寄せられています。伊藤美露さんの写真も素晴らしいものばかりです。是非とも手にとってご覧ください。

コースケ(野村万之丞)の遺言

 「体調を崩して入院したんで、女人狂言の演出を引き継いでよ」
 という電話が突然コースケからかかってきたのは、五月中旬のことだった。

 冗談もいい加減にしろよ。そりゃ、おれは芝居やオペラが大好きだ。貴様とは能や歌舞伎からイヨネスコやベケットまで、酒を飲みながら語り尽くしたこともある。けど、おれは一介のスポーツライターだ。巨人のナベツネがどうした、ジーコ・ジャパンがどうしたといった原稿を書いている人間だ。芝居の演出なんて学生時代以来のことで・・・
 といっても、取り合う相手ではない。自分の決めたことは押し通す。

 仕方ないので入院先を訪ねると意外と元気。コースケも退院して演出できるといったので安心し、女人狂言のアイデアを語り合い、雑談をしただけで別れた。
 それからわずか二週間足らず。わたしは訃報を旅先のロシアで聞いた。

 急遽帰国して女人狂言の稽古場を覗くと、春風ますみさんや田中梨花さん、城之内ミサさんなどの奮闘で、芝居は形を整えている。
 再び安心してコースケに関するマスメディアの取材をいくつか受けた。
 そのとき、自分が滔々と口にした言葉に、自分で驚いた。
 「万之丞の果たした仕事は大きく分けて三つあり、ひとつは狂言、ひとつは祭りのイベント、もうひとつは新狂言・・・」

 それは、入院先を訪ねたときにコースケが語り出したものにほかならなかった。
 「オレのやってきた仕事は三つあって・・・」
 貴奴め、おれに口移しで遺言を残しやがったのか・・・。
 そう思うと涙が止まらなくなった。

 オペラの仕事を一緒にしようといいながら、まだ実現してないのに早く逝ってしまいやがって・・・。
 最高の友人で理解者だった人物を亡くしたおれの身にもなってみろよ・・・。
 といいたいけれど、貴様のほうが、もっともっと悔しいのだろうな。合掌。

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