コラム「音楽編」
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掲載日2008-09-24
この原稿は、2003年に来日したイタリア・トリエステのジュゼッペ・ヴェルディ歌劇場日本公演に寄せて書いたものです。コンピュータのなかを整理していたら出てきたので、“蔵出し”します。

トリエステ・オペラの魅力〜イタリア・オペラの神髄

 実はつい最近、イタリアに旅行して帰ってきたばかり。
ミラノではヴェルディが定宿にし、死を迎えたグラン・ホテル・エ・デュ・ミランに泊まり、彼が音楽家のためにつくった養老院「カーサ・ディ・リポーゾ・ディ・ヴェルディ(ヴェルディの憩いの家)」も訪ねた。
もちろんおいしいパスタや生ハムも堪能した。どちらも日本で食べるものとは味が全然違う。イタ飯三昧の最高の旅だった。

 イタリアに行って強烈に感じたのは、ヴェルディに対するイタリア人の敬意だった。
これは日本人の想像以上で、プッチーニの比ではなく、ある意味でドイツ人のワーグナーに対する尊敬をも凌駕している。ワーグナーに対しては、拒否反応を催す人もいますからね。しかし、ヴェルディに対して、それはゼロです。
ヴェルディは、19世紀のイタリア統一運動のシンボル的存在でもあり、統一後の新生イタリアで国会議員まで務めた人物。親しみも含め、イタリア人にとっては「ヴェルディ大先生」といった感じで、「カーサ・ヴェルディ」の前にあるロータリーの中央に建てられた銅像も、威厳はあっても権威主義的ではなく、思わず「爺さん、格好いい」といいたくなる親しみに溢れている。

 トリエステ・オペラは、そんなヴェルディの名前を冠しているだけでも凄いと思ってしまう。
小生にいわせれば、ヴェルディはイタリアが生み出した最高級の「演歌師」であり、オペラをクラシック音楽だと理解している人は、意外とそこを聞き落とす。「イタリア節」と言い換えてもいいが、イタリア・オペラはイタリアの民族音楽なのだ。だからこそ酔えるし、楽しいのだ。

 今回の公演では、『ランメルモールのルチア』(ドニゼッティ)も『タンクレディ』(ロッシーニ)も、イタリア人歌手が主役を務める。そこにこそ、つまりイタリア人が歌うことにこそ意味がある。イタリアのメロディー、イタリアの節まわしをイタリア人が歌う。そのときはきっと、会場に本場イタリアの(ペペロンチーノやバルサミコのような、ともいえる)“匂い”や“香り”が充満することだろう。

『ルチア』では主役のステファニア・ボンファデッリに注目するのは当然だが、アンサンブルにも耳を傾けたい。特に有名な八重唱は、後のヴェルディ作品の複雑な(様々な役柄の性格を表す)アンサンブルにもつながる要素の先取りだ。
また『タンクレディ』は、あまり有名ではないがオモロイ曲。ロッシーニといえば喜劇といわれているけれど、イタリア的な演奏によって、彼が偉大なオペラ作家ということが証明されるに違いない。

 最近は音楽にしろ食べ物にしろ「世界的」「国際的」の大流行りで、世界中どこへ行っても「国際的な音楽」や「誰もが手軽につくれるスパゲッティ」がある。
しかし「世界的」「国際的」な文化などというものは、実は存在しない。存在するわけがない。いろいろな国や地方に、それぞれ民族的な文化があり、それが他の地域でも評価されて、「世界的」「国際的」文化と呼ばれるのだ。衛星電波に乗った、何の民族性も感じられない文化など、文化の名に値しない。

 今回の公演で聴けるのは、そんなエセ文化とは正反対のものだろう。ぜひ本場イタリアの匂いに触れ、そして酔っていただきたい。終演後は、やはりイタ飯が食べたくなるだろうが、こればかりは本場にはかなわないかもしれませんが。

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