コラム「音楽編」
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掲載日2020-02-26
この文章は、2月28日に春陽堂書店から上梓された拙著『今こそ「スポーツとは何か?」を考えてみよう!』に書いた「Column4」の冒頭部分の一部です。過去に出版した『クラシック道場入門』や『スポーツ解体新書』に書いた音楽とスポーツの関係に関する文章を、大幅に書き直し、書き加え、長いコラムに仕上げ直しました。“蔵出しコラム・スポーツ編”や“ノンジャンル編”にも書いたことですが、これまで小生は、35歳になった頃から翻訳書も含め、平均して年に1冊くらいのペースで拙著を出版してきました。自分で書いた本ができあがって書店に並ぶというのは、子供の姿を見るように愛しいものです。しかも、そろそろ「末っ子」になるかもしれないという本書です。ひとりでも多くの読者の方々に読んでいただけることを祈念して、ほんの少しだけ“蔵出し”させていただきます。皆さん、よろしくお願いします。

スポーツはアート(芸術)と合体する−−スポーツと音楽 密接すぎる美しい関係

 1964年の東京オリンピックで、わたしが大きな衝撃を受けたのは開会式と閉会式だった。

 古関裕而作曲の素晴らしい行進曲(オリンピック・マーチ)にのって、世界各国の選手たちが色とりどりの衣裳を身につけ、整然と行進した開会式は、ほんとうに圧倒的な迫力と美しさに溢れていた。とりわけ独立したばかりのアフリカ諸国の選手たちが身につけていた民族衣装や、胸を張った行進には目を奪われた。国立競技場に鳴り響いたファンファーレも見事で、それがオリンピックに先立って当時のNHKの人気クイズ番組『私の秘密』でで演奏されたことも憶えている。そのときの解説で、そのファンファーレが箏曲『六段』のメロディをアレンジしてつくられたものであることも知った。

 開会式の印象があまりにも強かったので、わたしはいまも、そのときの実況中継のアナウンスをくちにできるくらいだ。「1964年10月10日午後2時。いよいよ選手団の入場であります。先頭はギリシャ。旗手はジョージ・マルセロス君。紺地に白い十字のギリシャ国旗が、国立競技場の真っ赤なアンツーカーに映えます!」

 さらに、閉会式の素晴らしかったこと!
 整然とした開会式とは対照的に、閉会式ではまず、各国ひとりの選手が掲げる国旗だけが順に登場し、そのあとにあらゆる国の選手たちが入り乱れるようにしてスタジアムに雪崩れ込んできたのだった。「国境を越え、人種や宗教の違いを超え……、もしも世界平和というものが存在するならば、それはこのような風景のことをいうのではないでしょうか!」というアナウンサーの興奮した言葉を聞きながらテレビに映し出された光景は、言葉で何万回言われる以上に、「世界はひとつ」という東京オリンピックのスローガンを強く胸に刻みつけたのだった。

 東京オリンピックが終わると、学校の国語の時間に感想文を書かされた。「オリンピックでいちばん心に残ったこと」というテーマで。しかしわたしは、開会式や閉会式のことを書くことができなかった。というのは、当時小学六年生だったわたしには、開会式や閉会式は単なる儀式で、オリンピックというスポーツ大会とは基本的に関係のないものという意識しか抱けなかったからだった。しか、このときにモヤモヤした気持ちは、その後も長く心に残り続けた。あれほど素晴らしかった開会式や閉会式は、オリンピックというスポーツ大会にとって、どんな意味があるのだろう? とくに意味のない、ただの儀式なのだろうか? オリンピックの正式競技ではない開会式や閉会式にいちばん感激してしまった自分は、感激の仕方が間違っていたのではないだろうか?……そんな疑問を抱きつづけたのだった。

 東京オリンピックのあと、メキシコ五輪でも、ミュンヘン五輪でも、モントリオール五輪でも、開会式や閉会式は素晴らしく感じられた。

 高校生になって、クラシックやジャズ、それに演劇や歌舞伎やオペラが好きになっていたわたしにとって、ますますスポーツ競技以外のオリンピックの出来事に興味を抱くようになった。1972年のミュンヘン・オリンピックでは、『レコード芸術』という音楽雑誌で、バイエルン国立歌劇場でクラウディオ・アッバードというイタリア人指揮者がドイツ・オペラ界にデビューするという記事を読み、オリンピックとオペラにどういう関係があるのだろう? と首を傾げたものだった。

 さらに4年後のモントリオール・オリンピックでは、開会式でメイナード・ファーガソンという私の大好きなカナダ人のジャズ・トランペッターが登場し、ソロでカナダ国歌を見事に見事に演奏したのだった。

 そのころから雑誌記者の仕事をはじめ、スポーツに関する原稿を書きはじめていたわたしは、これらの「不思議な現象」について調べてみた。

 するとオリンピックには、1912年の第5回ストックホルム大会から「芸術競技」と呼ばれる正式競技が存在し、彫刻、絵画(油絵、水彩画、ポスター)、音楽(声楽作曲、オーケストラ作曲、器楽作曲)、文学(詩歌、劇作、文学全般)、建築設計、都市計画といった分野で、金・銀・銅のメダルが授与されていたこともわかったのだった。

 それは古代ギリシアのオリンポスの祭典競技(古代オリンピック)を真似たもので、そこでは、絵画や壺絵、詩歌や竪琴の演奏のほかに(政治)演説も競技になっていたという。つまり、わたしたちが現在「スポーツ」と呼んでいるものには、単に「身体競技(身体表現)」だけでなく、「精神表現」とも呼ぶべき「芸術表現」もふくまれていたのだ。

 身体表現と精神表現は、表裏一体とも言える関係で、そもそも古代オリンピックは、オリンポスの山に棲む主神ゼウスをはじめとする神々を讃える祭典だった。神々を讃えるために創りあげた芸術作品が精神表現で、神々の美しい身体に少しでも近づこうとし、最も美しく力強い(神々に近い)人物を決める身体競技が、身体表現というわけだ(もうひとつ、神々の意向=神託を伺うところから生まれた文化がギャンブルという言い方もでき、スポーツとアートとギャンブルは、同じルーツを持つにんげんの文化とも言える……が、それはさておき)。

 このように、精神表現と身体表現が同種のものであり、極めて密接な関係にあるものと考えられるのは、何も西洋の文化に限ったことではない、日本の相撲という身体競技にも、触れ太鼓や相撲甚句といった音楽が、同じ土俵の上から生み出されている。また、土俵につづく「花道」は芝居や踊りで役者や踊り手が登場する「花道」と、言葉を共有している。これは村祭りのときなどに、相撲や芝居や踊りが同じ場所で行われ、力士や役者や踊り手の通る畦道が花で飾られたことに由来しているとも言われている(かつて芝居小屋は舞台のみが建てられ、観客は芝(草)の上に座って見物したから「芝居」という言葉が生まれたらしい)。

 ようするに「祭り」(宗教行事)には、必ず「精神表現」と「身体表現」が同居していたとも言えるのだ。

 この伝統は、今日のオリンピックやワールドカップにも引き継がれている。
 かつてオリンピックの正式競技だった「芸術競技」は、芸術は順位を争うものではないという考えから、1948年の第14回ロンドン大会を最後に正式競技から除外され.「芸術展示」として残されることになった。それが現在では、「文化プログラム」と呼ばれて、オリンピック期間中には(選手村の開村式の日からパラリンピックの閉会式の日までの期間は必ず)、開催都市がさまざまな芸術イベントを催すことになっている(そのことは、オリンピック憲章に明記され、義務づけられている)。

 先に書いたクラウディオ・アッバードがミュンヘン国立歌劇場にデビューした、というのもミュンヘン・オリンピックの芸術展示イベント(現在の文化プログラム)の一環だったわけで、イタリア人のアッバードはオリンピックをきっかけに活躍の場を広げ、その後ウィーン国立歌劇場の総監督となり、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者や音楽監督も務める大指揮者への道を歩むようになったのだった。

 過去のオリンピックを振り返ってみると、そこには競技者たちの素晴らしい活躍とともに、素晴らしい芸術家たちによる見事な数々の芸術展示(アート・パフォーマンス)も歴史に刻まれている。

 1964年のオーストリア・インスブルックでの冬季大会では、カール・ベームの指揮するウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の連続演奏会が行われた。1984年のロサンジェルス五輪では、『スター・ウォーズ』『スーパー・マン』『E.T.』といった映画音楽で有名な作曲家のジョン・ウィリアムズが芸術監督となり、いまも名曲として演奏されることの多いファンファーレを作曲したうえに、開閉会式で指揮台に立ってクラシックからジャズまで様々な演奏を披露した(そして圧巻は何十台ものピアノをスタジアムにズラリと並べて演奏されたジョージ・ガーシュウィン作曲の『ラプソディー・イン・ブルー』だった)。

 1988年のソウル・オリンピックでは韓国の伝統音楽や戦闘演劇が紹介され、1992年のバルセロナ・オリンピックでは、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラス、クレメンス・クラウス、モンセラート・カバリエ、テレサ・ベルガンサなどの一流のオペラ歌手が一堂に会して開会式を盛りあげた。そのうえ新装開館したリセオ歌劇場でのオペラの連続上演が話題を呼んだ。

 1998年の長野冬季五輪でも開会式でで「御柱祭」や披露されたうえ、小澤征爾の指揮がウィーン・フィルやベルリン・フィルやニューヨーク・フィルなどと衛星中継でつながれ、ベートーヴェンの『歓喜の歌』(第九交響曲第4楽章)が演奏された。また、残念ながらあまり話題にはならなかったが、新作オペラ『善光寺物語』が初演されたほか、座間座間な芸術イベントも連日催された。

 2000年のシドニー・オリンピックでの文化プログラムは、相当に内容の濃い、豪華なものだったので、少し詳しく紹介しよう。

 高橋尚子選手が金メダルを獲得したマラソン競技の背後には、大きな貝殻の形をした美しいオペラ・ハウスがテレビの画面にも映し出されていたが、そこではオリンピック期間中にヴェルディの『椿姫』『シモン・ボッカネグラ』、プッチーニの『トスカ』、モーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』、リヒャルト・シュトラウスの『カプリッチョ』といった素晴らしいラインナップのオペラが連続上演されていた(リヒャルト・シュトラウスは1936年のベルリン・オリンピックでも音楽監督を務めた)。

 また同じ「貝殻」のなかにある小劇場では、シェイクスピアの『トロイダスとクレシダ』アリストパネスの『鳥』、モーツァルトのオペラとしても有名なボーマルシェの『フィガロの欠陥』といった演劇が連続上演され、コンサートホールでは、シドニー交響楽団、ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団、ミラノ・スカラ座管弦楽団などの連続演奏会のほか、ジャズやポプスのコンサート、マレーネ・ディートリヒの再来と言われた歌手のウテ・レンパーや、盲目のテノール歌手アンドレア・ボチェッリのコンサート、世界一流のバレリーナであるシルヴィ・ギエムの出演したバレエのガラ公演なども行われた。

 ほかにも美術館での絵画展や彫刻展のほか映画祭やアニメ・フェスティヴァルも行われ、手塚治虫特集として『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』、宮崎駿の『もののけ姫』も上映された。

 その後もすべてのオリンピック大会で素晴らしい文化プログラムが催され、2008年北京大会の開会式では映画監督の2012年のロンドン大会だろう。音楽プログラムには世界的指揮者のダニエル・バレンボイムやグスターボ・デュダメルが名を連ね、映画『トレイン・スポッティング』などで有名なダニー・ボイル監督の演出した開会式(ミスター・ビーンも登場した!)ではイギリス人でベルリン・フィルの音楽監督だったサイモン・ラトルが指揮台に上がったほか、オペラ歌手のプラシド・ドミンゴ、ジャズ・トランペッッターのウィンストン・マルサリスなども文化プログラムに登場。そんななかで最も話題になったのは、「ワールド・シェイクスピア・フェスティヴァル」と銘打ち、日本を含む世界中の演劇団がイギリス各地を訪れ、手話を含む世界の37の言語でシェイクスピアの戯曲を上演したことだった。

 こういったスポーツ大会における身体競技以外の文化イベントは、何もオリンピックに限ったことではない。

 1990年に行われたサッカー・ワールドカップ・イタリア大会では…………
(ここらで紹介は留めておかせていただき、あとは拙著をご購入の上、お楽しみください。サッカーのワールドカップや、メジャーリーグ・ベースボール、それに高橋大輔、羽生結弦、  真央などのフィギュアスケート選手と「音楽」の関係についても詳しく書いてますので、御期待ください)

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・ <演歌 de おぺら(エンカ・デ・オペラ)>上演企画書

・ 『指揮者列伝』ミニミニ・ダイジェスト「カラヤン・ゲルギエフ・セラフィン・バーンスタイン」

・ あけましてフリー漫才

・ 男の子がヴァイオリンを弾くのは恥ずかしいことだった・・・?

・ 『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第12期「オペラは、祭りだ! お祭りだ!」MUSIC FESTIVALS IN THE WORLD

・ 革命的斬新さを失わない音楽――それがクラシック

・ いつの世も変わらない「親子」と「男女」

・ 日本ポップス史講座アンケート

・ 待ち焦がれた“パリジャン”の本領

・ 「浪漫派ベートーヴェン」を存分に楽しませてくれた演奏に心から拍手

・ 音楽家はいかにして演奏に心をこめるのか?

・ JAZZとテツガク

・ ソロ(孤高)を求めてバンド(連帯)を怖れず!

・ 我が「師匠」福島明也の魅力

・ 城之内ミサ『華�Uroad to OASIS』「ジャンル」を超えた素晴らしい音楽

・ 懐かしい空間の響き

・ 佐渡&玉木のぶっちゃけトーク

・ 五嶋龍―「神童」の生まれ出る一瞬

・ ヤッタリーナ!ガンバリーナ!イタリーア!

・ アメリカのスポーツとアメリカの音楽

・ フィリッパ・ジョルダーノの魅力〜フィリッパの歌はイタリアの味

・ 「私の好きな音楽」身体で感じる世界

・ 玉木正之の『オペラはやっぱりオモロイでぇ』第10期「オペレッタを楽しもう!」

・ リヒャルト・シュトラウスのオペラは宝塚にふさわしい

・ 日本人は「万葉集」以来「歌とともに生きている」

・ 東方の奇蹟の二重唱

・ 永遠の歌声

・ 「原点回帰」の「山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート2006」に贈る新春お笑い寄席 新作古典落語『人生振出双六』

・ 20世紀最高の「歌役者」

・ クルマとラジオ

・ 世界は演歌に満ちている

・ バーブラは諸行無常の響きあり

・ 最高の「日本オペラ」

・ タイムマシンと冷戦時代

・ ニッポンは明るい!

・ 春の祭典

・ シャンソンは高級?

・ イタリアはイタリア

・ ジャズはサッカー?

・ 世界はひとつ?

・ 大事なのは、質より量?内面より外見?

・ ビートルズはわかる?

・ 無人島で聴く最後の歌

・ 歌は世に連れない

・ クレオ・レーンの学歴

・ ひばりの川流れ

・ NASAと蓄音機

・ 日本人の遊び心

・ 「革命的音楽」は時代とともに消えてゆく?

・ 究極のノスタルジー

・ 『プロの仕事』

・ 佐渡&玉木のぶっちゃけトーク(最終回)

・ 「映画を所有したい!」と思うのは何故?

・ 討ち入りや ゑひもせすまで ジャズに酔ひ――『ジャズマン忠臣蔵』講釈・前口上

・ ゲルギエフの引き出す無限の可能性/偉大な芸術とは、オモロイもんである。

・ 冬の夜長にオペラ――その極上の面白さをDVDで味わう

・ 都はるみさんの「世界」との新たな出逢い

・ 天国の大トークバトル『クラシック あとは野となれ ジャズとなれ!』

・ 超虚構音楽史―山下洋輔作曲「ピアノ・コンチェルト」の世紀の一戦

・ 男と女の愛の形――悪いのはどっち?

・ 「世の中に新しきものナシ」あらゆる創作はパクリである?

・ モーツァルトのオペラのおもしろさ

・ 人を愛し、未来を信じ、時代を超越するパワー

・ バーンスタイン『キャンディード』の単純明快な世界

・ いつの世も変わらない「親子」と「男女」

・ <演歌 de オペラ>上演企画書

・ カルロス・クライバー〜〜実体験なき体験/〜夢のような体験

・ 歌うピアニスト ―― G&G(グルダとグールド)

・ グレン・グールド<ガラス=音楽=グールド>

・ 『ブルース・ブラザース』讃

・ 翔べ! 21世紀へ!「エレクトリック・クラシック」の翼に乗って!

・ サロメ――官能と陶酔の神話の魅力

・ 神野宗吉(ジャンニ・スキッキ)の娘・涼子(ラウレッタ)のアリア『好きやねん、お父ちゃん』(『私のお父さん』)

・ 「子供(jr)」という大発見

・ NHK-FM『クラシックだい好き』 1〜6回プログラム

・ 島田雅彦のオペラと小説――『バラバラの騎士』と『どんな? あんな?こんな? そんな!』

・ 「オペラ忠臣蔵」のテロリズム

・ フリンオペラ年表400年史『オペラの歴史はフリンの歴史』

・ 極私的ワーグナー体験の告白『私は如何にしてワーグナーの洗脳を解かれたか?』

・ ベートーヴェンの「朝ごはん」

・ サッカーと音楽の合体――それがスポーツ!それがワールドカップ!

・ オペラ「アイーダ」の本当の魅力

・ ヨースケのことなら何でもワカル!『ヤマシタ・ヨースケ・ジャズ用語大辞典』遠日発売未定 内容見本

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