コラム「音楽編」
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掲載日2005-02-22

CD

『マーラー:交響曲第5番』

『マーラー:交響曲第5番』

この原稿は、指揮者の佐渡裕さんと小生が往復書簡を交わすというスタイルで、今から6年前の1999年、京都新聞に毎月1回1年間連載したものです。佐渡さんが、最近、パリ管との「幻想交響曲」やシュトゥットガルト放送響とのマーラーの「5番」など、続々と素晴らしい演奏のライヴ録音(CD)をリリースされているので、それを記念して(というか、それをきっかけにこんな原稿もあったなと思いだしたので)ここに「最終回」の1本を“蔵出し”します。

佐渡さんの次回発売(3月24日)のCDはスイス・ロマンド管とのプロコフィエフ『ロメオとジュリエット』だそうです。

佐渡&玉木のぶっちゃけトーク(最終回)

 佐渡さん、先日はオーディオ雑誌の対談で久しぶりにお逢いできて、しかも面白い話の連続でビールも進み、小生はすっかりホロ酔い気分になってしまいました。
 しかし、あんなに楽しく飲みながら、『ヤング・ピープルズ・コンサート』の直前ということで、酒量を適度に抑えた貴兄はナカナカのものであります。十歳近く年上の小生にも、真似のできるワザではありません。

 これは、オーケストラの連中を相手にチーム・プレイをしている貴兄と、自分一人で机に向かって個人プレイで字を書いている小生の違いかな(などといいながら、いつも飲み過ぎで編集者に迷惑をかけていることは自覚しているのですが・・・)。

 それにしても、貴兄と話した「身体論」は、最高の内容でした。
 世の中の話題は、青少年の非行問題から役人の不始末まで、とかく物事の「解釈」「考え方」「思想」「生き方」「人生論」といった具合に、「心」と「精神」のほうへと進むものです。
 が、小生は、最近「身体」のことばかり気になっていて――だって、「身体」が存在しないと人間は考えることすらできませんからね――それでスポーツをきっかけに、「身体」のことを話題にしたら、見事に音楽における「身体」の話へと話題を進めてくださいました。

 「指揮をしていて、音楽が上手く創り出せなかったときは、身体のどこかの筋肉に居心地の悪さを感じる。だから、頭で反省する以上に、その身体の居心地の悪さを憶えておいて、次からはそうならないように努力する・・・」といった貴兄の身体感覚には、感服しました。

 頭を使えば、他人に対しても自分に対しても、ウソをつくこともごまかしも、いいわけもできます。でも、身体はじつに正直で、ウソをついたり、ごまかすことができませんからね。だから、「心」を大切にすると同時に、「身体」にも気を配り、自分の身体と会話をして、自分の本当の状態を把握することが大事なんですね。

 そう考えると、最近の「ダイエット・ブーム」というのは、最低というほかありません。
 「身体」を自分の「精神」で理想通りにコントロールする、というと聞こえはいいけど、「身体」とは自然の存在で、「精神」とは人工的な思索ですからね。ダイエットというのは、川にダムを造って、自然を制御し、支配しようとするようなものでしょう。

 世界一を誇るエジプトのアスワン・ハイ・ダムのおかげで、ナイル川の氾濫はなくなったけれど、肥沃なデルタ地帯の砂漠化が進行している、という話も聞きます。日本の河川も多くのダムを造ったおかげで洪水はなくなったかもしれないけど、魚は住めなくなり、土砂がたまって支えきれなくなる寸前のダムもあると聞きます。

 最近のテレビに出演しているあまりにスリムな若いタレントたち(と、彼らを真似た若者たち)を見ていると、このあと何年か先に、精神(人間)が自然(身体)の復讐を受けるのでは・・・と思ってしまうのは、中年太りの小生の杞憂(あるいは、ヒガミ)でしょうか?

 しかし貴兄には、そんな心配をする必要がないので安心です。といっても、何も貴兄が太目だといっているのではないですよ。身体がでっかいことを皮肉ってるわけでもありません(そんなことをいえる私じゃないですからね)。
 大きい人は大きい人なりに、小さい人は小さい人なりに、太ってる人も、やせている人も、それなりに、その人に合った身体状態というものがあり、その状態にあるとき、身体は光り輝いているように見え、精神(心)も安定していて、バリバリ仕事ができるものです(と、小生は思っています)。

 このあいだ久しぶりに逢って、貴兄の身体に(ただ、でっかいというだけでなく・失礼)そんな輝きを感じました。すばらしいことです!
 このまま音楽に邁進して行かれる貴兄は、きっといつかベルリン・フィルやウィーン・フィルの指揮台に立たれることでしょう。そしてミラノ・スカラ座のオーケストラ・ピットに入る日も必ず訪れるように思います。

 それは、小学生のときからレナード・バーンスタインにあこがれ、指揮者になりたいと思いながらチャレンジすることすらできなかった小生の夢でもありました。
 1年間つづいたこの往復書簡の最後に一言、ムチャクチャ失礼なことを書かせてもらうことにします。
 佐渡クン、おれの夢を、おれの代わりに、かなえてくれ!

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