コラム「音楽編」
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掲載日2009-02-25
この原稿は、1999年の宝塚歌劇・宙組公演『スペシャルレビュー・GLORIOUS!栄光の瞬間』のパンフレット用に書いたものです。コンピュータのなかからヒョイと出てきたので“蔵出し”します。

アメリカ音楽が超大国アメリカを支える!?

 イタリアには「カンツォーネ」、フランスには「シャンソン」、日本には「うた」、それに、スペインには「フラメンコ」、ブラジルには「サンバ」、アルゼンチンには「タンゴ」、バリ島には「ガムラン」……と、世界各地には、それぞれ特徴的な歌があり、メロディがあり、リズムがあり、ハーモニーがあり、音楽がある。

 そのような特徴的な歌や音楽が生まれたのは、世界各地の気候、風土、すなわち自然が異なっているからだろう。

 地中海の青と輝く太陽から生まれたカンツォーネ。太陽の光がさらに輝きを増せば影も濃く暗くなり、そんな光と影のなかから踏まれたフラメンコ。枯葉の舞い散る肌寒い都会から生まれたシャンソン……。

 歌や音楽に限らず、人間の産みだしたもの、創りだしたものはすべて――絵画も、彫刻も、詩も、演劇も、小説も、料理も、スポーツも、さらに、宗教も、政治も、経済も、すべて、世界各地の「自然」の影響を受け、それぞれの地方で特徴的な形態を持つようになった。それが、「文化」と呼ばれているものである。

 ならば、「アメリカの音楽」とは、いったいどのような特徴を持っているのだろうか?
 そのことを考える前に、もうひとつ頭に入れておかなければならないことがある。
 それは、「言葉」である。

 人間が産みだした「言葉」も、もちろん世界各地の気候風土、すなわち自然の影響を受けるなかでできあがった。ギリシア語にはギリシア語の特徴がある。フランス語やドイツ語にはフランス語やドイツ語特有のリズムがある。イタリア語にはイタリア語独特の発声があり、中国語にも、韓国語にも、日本語にも、その土地土地の自然の影響を受けた特徴的なリズムや発声がある。

 世界各地に生まれた歌や音楽は、それぞれの地方の特徴的な言葉と密接に結びつくなかから、独特のメロディやリズムを創りだしてきた、といえるだろう。

 イギリスで発達した英語という言葉もまた、イギリスという島国特有の自然を反映したリズムや発音を形作った。が、英語には、他のヨーロッパの言葉とは少しばかり異なる特徴があった。それは、イギリスがヨーロッパ辺境の島国であったため、ヨーロッパ大陸の言葉のすべての影響を受けて発達した、ということである。

 英語のなかには、ギリシア語も、ラテン系の言葉(フランス語やイタリア語やスペイン語のもとになったラテン語)も、ゲルマンの言葉(ドイツ語)も、北欧のノルマン人や土着のケルト民族の言葉も含まれている。それらの言葉がごちゃまぜになってできあがった「英語」という言葉は、どうも固有のリズムやメロディというものを、なかなか持つことができなかったように思える。その結果、イギリスでは、なかなか音楽という文化が発達しなかったのである。

 1597年、ルネサンスと呼ばれる時代の終わりに、イタリアでは「オペラ」と呼ばれる音楽を伴った演劇が誕生した(フィレンツェに住むある貴族が、ギリシアの古典劇に音楽をつけて上演した)。

 歌で物語(人間の感情)を表現するこの芸術は、あっという間にヨーロッパ中に広がり、そこから様々な音楽を生みだした。オペラの「序曲」は、やがて「シンフォニア」と呼ばれて「交響曲(シンフォニー)」となり、「協奏曲」や「管弦楽曲」を生みだした。オペラの「独唱曲(アリア)」や「重唱」は、「歌曲」を生み、ドイツ・リートやカンツォーネやシャンソンの確立に影響を与えた。そうして、記譜法(楽譜の書き方)が統一され発達したことと相俟って、今日「クラシック」と呼ばれている音楽や歌は、ヨーロッパ中に広がった(アジアでも、中国の京劇、日本の能・歌舞伎、バリ島のガムラン等々、「オペラ」の一種といえる音楽劇の発展とともに、歌や音楽が広まった)。

 ところが英語を使っていたイギリスは、なかなか歌や音楽が発達しなかった。
 イタリアでオペラが誕生した時代、イギリスにはシェークスピア(1564〜1616)が登場し、演劇が全盛となった。そこには音楽も用いられたが、音楽だけが独立して大きく発展するようなことはなかった。

 これはあくまでも推測だが、あまりにも多くの言葉が混ざり合い、複雑な発音や発声となった英語は、シェークスピアのような美しい韻を踏んだ言葉を朗読するだけで、音楽的満足が満たされたのかもしれない。

 その当否はさておき、とにかくイギリスでは、モーツァルトやベートーヴェンやワーグナーや、ベルリオーズやヴェルディやショパンやシューマンといった偉大な作曲家は輩出されることなく、演劇(詩)中心の文化を発展させたのだった。

 そして、英語を使う人々が新大陸にわたって築いた国が、アメリカというわけである。
 新大陸に移住した人々は、新たな気候と風土、広大な北アメリカの大地や森に触れ、詩を創り、音楽も創った。が、なかなか「アメリカ独自の音楽」と呼べるものは生まれなかった。1893年、チェコの作曲家アントン・ドヴォルザークは『新世界より』と名付けた交響曲を創ったが、それは故郷のボヘミア地方を偲ばせるメロディに溢れていた。

 しかし、そんななかで、徐々に「アメリカの音楽」と呼べるものが生まれはじめた。
 それは、アフリカから奴隷として強制的に移住させられた人々の歌ったスピリチュアル(黒人霊歌)と呼ばれる音楽だった。アフリカのリズムと英語という言葉のリズムが合体したその音楽は、やがてジャズ、ゴスペル、ブルースなどと呼ばれるアメリカ独特のアフタービートの音楽(英語のリズムを生かした音楽)を生み出した。

 さらに、ヨーロッパの民謡にスピリチュアルを取り入れた作曲家スティーヴン・フォスター(1826〜1864)が現れ、『草競馬』『おおスザンナ』『故郷の人々』『オールド・ブラック・ジョー』といった、今も世界中の人々に親しまれている「アメリカの歌」を創りあげた。それは、やがて「カントリー・ミュージック」と呼ばれる「アメリカの(白人の)音楽」に発展する。

 ジャズやカントリー・ミュージックは、英語とマッチした。ヨーロッパの北の果ての島国で発達した英語は、アメリカという新大陸で黒人(アフリカ)の固有のリズムと初めて出逢い、その言葉にふさわしい音楽を手に入れたのである。

 話は少々横道にそれるが、ルチアーノ・パヴァロッティ、プラシド・ドミンゴ、ホセ・カレーラスの「三大テナー」に、「いちばん歌いにくい言葉は何?」と訊いたことがある。すると、三人とも声を揃えて「イングリッシュ」と答えた。クラシック音楽の歌手(ジャズやカントリー・ミュージックの要素を含まない歌い方をする歌手)にとって、英語の歌詞は、いまも最も歌いにくいのである(日本語は歌いやすいといって、その場で『川の流れのように』の一節を歌ってくれたりもした)。

 逆に、日常会話に英語を用いているアメリカ人は、英語特有のイントネーションから、ジャズやカントリー・ミュージックをさらに発展させた新しいリズムの歌や音楽を次々と生みだし続けた。

 英語特有の抑揚のあるイントネーションは、激しいシンコペーションの音楽を生みだし、スコット・ジョプリン(1868〜1917)がラグ・タイムというリズムに完成する。彼の作曲したピアノ曲は、のちに映画『スティング』の主題歌にも使われた『エンターテイナー』や『メイプル・リーフ・ラグ』が大ヒットし、陽気なディキシーランド・ジャズを生む。

 ディキシーランド・ジャズの最高のトランペット奏者であるルイ・アームストロング(1900〜1971)は、ソロ演奏がほとんどなかったジャズ・バンドに、即興のソロ演奏を持ち込み、一つのメロディを自由に変奏する彼のインプロヴィゼーション・スタイルは、デューク・エリントン(1899〜1974)に引き継がれ、その後のジャズ演奏の基本的スタイルとなった。

 さらに、アフリカ系アメリカ人だけでなく、ヨーロッパ系アメリカ人もジャズの世界で活躍するようになり、ジョージ・ガーシュイン(1898〜1937)がヨーロッパのクラシック音楽とジャズの融合を目指すなかで、次々とヒット曲を創作。グレン・ミラー(1904〜1944)、ベニー・グッドマン(1909〜1986)らの白人ジャズメンもビッグバンドを結成し、激しいリズムや即興演奏よりもメロディラインを強調したスウィング・ジャズを完成した。

 そして、ブルースから生まれたリズム・アンド・ブルースをカントリー・ミュージック(ヒルビリー)で育った白人の若者たちが歌ったなかからロックン・ロール(ロカビリー)が誕生。チャック・ベリーやエルヴィス・プレスリーによって世界に広まったロックン・ロールは、「ロック」と名を変え、人種、民族を超え、さらに英語以外の言葉の歌にも影響をおよぼし、いまや人類共通の音楽といえるほどに浸透した。

 ロックは、さらに、プログレッシヴ・ロック、パンク・ロック、ヘヴィ・メタル……、ソウル・ミュージック、ディスコ・ミュージック……等の新しい音楽をも生みだし、いまも世界中のミュージシャンにとって、新たな音楽を生む「種」の役割を果たしている(最近、日本で大ヒットしたインド映画『踊るマハラジャ』の音楽なども、古い歴史のあるインド音楽とロックの融合したものといえる)。

 音楽的発展が最も遅かった英語――それが、アメリカという自然(気候と風土)のなかで、アフリカのリズムと出逢い、さらに電気や機械からコンピューターに至る現代科学技術の進歩と都市の発達のなかで、「世界の音楽」を産み出すほどの音楽的発展を成し遂げたのである。

 その事実を、アメリカ合衆国という国の力の側から説明しようとする人がいる。つまり、政治的・経済的・軍事的に最強国となったアメリカが生みだした音楽(文化)であればこそ、その力を背景に(文化帝国主義的に)世界中に広まった――というのである。

 そういう要素も、なきにしもあらずだが、ジャズやブルース、リズム・アンド・ブルースやロック等、アメリカの産みだした数々の名曲は、そんな国の力だけで世界に広がったとは思えない。むしろ、逆に、そのような名曲を数多く産み出すことができたからこそ、アメリカという国も世界で最も大きな力を持つ大国になることができたのではあるまいか。もしも、アメリカが、いまだに音楽的に後進国で、経済的・軍事的のみの超大国であったのなら、現在のような(政治的に)世界に影響力をおよぼす大国にはなれなかったのではないだろうか。
 音楽の力とは、それほど大きいもの……と、わたしには思えるのだが――。

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・ 「原点回帰」の「山下洋輔ニュー・イヤー・コンサート2006」に贈る新春お笑い寄席 新作古典落語『人生振出双六』

・ 20世紀最高の「歌役者」

・ クルマとラジオ

・ 世界は演歌に満ちている

・ バーブラは諸行無常の響きあり

・ 最高の「日本オペラ」

・ タイムマシンと冷戦時代

・ ニッポンは明るい!

・ 春の祭典

・ シャンソンは高級?

・ イタリアはイタリア

・ ジャズはサッカー?

・ 世界はひとつ?

・ 大事なのは、質より量?内面より外見?

・ ビートルズはわかる?

・ 無人島で聴く最後の歌

・ 歌は世に連れない

・ クレオ・レーンの学歴

・ ひばりの川流れ

・ NASAと蓄音機

・ 日本人の遊び心

・ 「革命的音楽」は時代とともに消えてゆく?

・ 究極のノスタルジー

・ 『プロの仕事』

・ 佐渡&玉木のぶっちゃけトーク(最終回)

・ 「映画を所有したい!」と思うのは何故?

・ 討ち入りや ゑひもせすまで ジャズに酔ひ――『ジャズマン忠臣蔵』講釈・前口上

・ ゲルギエフの引き出す無限の可能性/偉大な芸術とは、オモロイもんである。

・ 冬の夜長にオペラ――その極上の面白さをDVDで味わう

・ 都はるみさんの「世界」との新たな出逢い

・ 天国の大トークバトル『クラシック あとは野となれ ジャズとなれ!』

・ 超虚構音楽史―山下洋輔作曲「ピアノ・コンチェルト」の世紀の一戦

・ 男と女の愛の形――悪いのはどっち?

・ 「世の中に新しきものナシ」あらゆる創作はパクリである?

・ モーツァルトのオペラのおもしろさ

・ 人を愛し、未来を信じ、時代を超越するパワー

・ バーンスタイン『キャンディード』の単純明快な世界

・ いつの世も変わらない「親子」と「男女」

・ <演歌 de オペラ>上演企画書

・ カルロス・クライバー〜〜実体験なき体験/〜夢のような体験

・ 歌うピアニスト ―― G&G(グルダとグールド)

・ グレン・グールド<ガラス=音楽=グールド>

・ 『ブルース・ブラザース』讃

・ 翔べ! 21世紀へ!「エレクトリック・クラシック」の翼に乗って!

・ サロメ――官能と陶酔の神話の魅力

・ 神野宗吉(ジャンニ・スキッキ)の娘・涼子(ラウレッタ)のアリア『好きやねん、お父ちゃん』(『私のお父さん』)

・ 「子供(jr)」という大発見

・ NHK-FM『クラシックだい好き』 1〜6回プログラム

・ 島田雅彦のオペラと小説――『バラバラの騎士』と『どんな? あんな?こんな? そんな!』

・ 「オペラ忠臣蔵」のテロリズム

・ フリンオペラ年表400年史『オペラの歴史はフリンの歴史』

・ 極私的ワーグナー体験の告白『私は如何にしてワーグナーの洗脳を解かれたか?』

・ ベートーヴェンの「朝ごはん」

・ サッカーと音楽の合体――それがスポーツ!それがワールドカップ!

・ オペラ「アイーダ」の本当の魅力

・ ヨースケのことなら何でもワカル!『ヤマシタ・ヨースケ・ジャズ用語大辞典』遠日発売未定 内容見本

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