コラム「音楽編」
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掲載日2008-05-14

この原稿は、5月3日に兵庫県立芸術文化センターで行われた大コンサート『フリン伝習録』(筒井康隆・作/山下洋輔・ピアノ)に先だって発行された芸術監督である佐渡裕さんの機関紙『佐渡通信08年5月号』に寄稿したものです。小生はテレビの仕事や大掃除で肝心のコンサートを聴きに行けなかったので、悔しまぎれに“蔵出し”します。

「不〜倫火山」大爆発!善男善女の皆さんも、煩悩まみれの皆さんも、みんな一緒に御唱和ください!「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」

 東京オペラシティにあるコンサートホール(通称・タケミツホール)で、山下洋輔さんは、2001年以来毎年ニューイヤー・コンサートを続けてきた。今年も佐渡裕さんの指揮で自作の『ピアノ協奏曲第3番エクスプローラー』を初演し、昨年はなんとフリージャズ界の大御所セシル・テイラーとの協演も実現させた。

 そんな実験的で革新的でウキウキワクワク大興奮する新年のコンサートの第4回目(2004年)に取りあげられたのが今日のプログラム『フリン伝習録』である。
「フリン」とはもちろん「不倫」のこと。タイトルを見ただけでも革命的…かどうかはさておき、中味は他に類を見ないジャズ・オペレッタ。

 クラシックの喜歌劇としては超有名なレハール作曲『メリー・ウィドウ(陽気な未亡人)』の美しいワルツが、時には一流クラシック歌手の美声によって艶やかに歌われ、時にはスイングするジャズとしてリズミックに奏でられ、さらに時にはフリージャズのインプロヴィゼーション(即興)としてぶち壊され、はたまた時には脚本を仕上げた筒井康隆大先生御大自らノリノリのラップで語り歌い踊り……いやはや、こんなに楽しくも驚きと笑いに満ちたコンサートは人生初体験! 思わず(誰もが)客席から腰を浮かせ、立ちあがり、ハラホロヒレハレと踊り出しそうになったものだった。

 そんななかでも大ケッサクだったのが、「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン」の大合唱。
恋の鞘当てにホトホト疲れた男どもが、「男をいつも困らせるもの、それは女! 男が理解できないもの、それは女!」といった歌詞を歌う。その原詩(ドイツ語)で「Weiber,Weiber,Weiber,Weiber!(女、女、女、女!)」と書かれた歌詞に、筒井康隆大先生は、なんと「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」という訳詞をあてたのである。

 この言葉が、メロディにもリズムにも物語の内容にもピタリと当てはまり、幕切れでもアンコールでも観客まで巻き込んで「不倫、不倫!」の大合唱。男も女も老いも若きも、善男善女が声を合わせて「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」の大絶叫。

 こんな反社会的で不道徳な言葉を、楽しく明るく大声でシュプレヒコールしていいものか、と一瞬(誰もが)ためらい、照れ笑いを浮かべたりもしたが、止まらない。「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」と、「不〜倫火山」の大爆発!
しかし考えてみれば、オペラなるもののテーマは、90パーセント以上が男と女のホレタハレタ。男と女の愛憎劇。しかも、その90パーセント以上が「不倫」なのだ!

 カルメンも椿姫も蝶々夫人も、そして陽気な未亡人の周囲に集まる人々も、誰も彼もが不倫に走り、走られ、愛し、愛され、騙し、騙され、憎み、憎まれ、悩み、悩まされ、癒やし、癒やされ……。不倫こそ人生! といわんばかりにオペラやオペレッタは、不倫を高らかに歌いあげる。

 いや、虚構としての舞台も、所詮は実人生の生き写し。ならば誰もが声を揃えて、「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン」と歌い叫んで厄落とし(?)するのも、また一興。ちなみに「伝習録」とは、「伝統と習慣をまとめた一編」といった意味である。

 では、今宵は一時、善男善女の皆さんも、煩悩の真っ只中を突っ走ってる皆さんも、男と女の伝統と習慣に従い、大きな声で御唱和ください。
「不倫、不倫、不倫、フリ〜ン!」
スカッとしまっせ。

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