コラム「音楽編」
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掲載日2004-11-01

この原稿は、今年1月に紀尾井ホールで催された佐野成宏(テノール)と大岩千穂(ソプラノ)のジョイント・コンサートのパンフレットに寄稿したものです。ただし文字量を間違えてしまい、予定の2倍も書いてしまったため、実際に使われた原稿はこの2分の1になっていますが、11月17日に同じく紀尾井ホールで大岩千穂さんがソロ・コンサートを開くのを記念して、原典版の原稿をここに“蔵出し”します。

男と女の愛の形――悪いのはどっち?

 歌は世に連れ、世は歌に連れ・・・という言葉がある。が、そうとも限らない歌がある。いつまでも残り、いつの時代もうたわれる歌。オペラのアリアが、まさにそれである。

 今宵1曲目『宝石の歌』は、ゲーテの大傑作『ファウスト』をフランスの作曲家グノーがオペラ化した作品からのアリア。悪魔(メフィスト)が並べた煌びやかな宝石を目にして、乙女マルガレーテの清純な心も揺れ動く。女は、悪魔の誘惑に弱いのだ?

 2曲目のシェークスピアの大傑作『ロミオとジュリエット』も、グノーがオペラ化した作品で、一目惚れしたジュリエットを太陽にたとえ、ロミオが「昇れ、太陽よ!」とバルコニーの下でうたう。男は、純情?
  3曲目は、ドン・ホセとミカエラの二重唱。婚約している二人は愛を誓うが、このとき既にホセの心のなかには妖艶なカルメンが・・・。清純な婚約者がいるのに、男は阿呆か?

 プッチーニ自身が最も愛したオペラ『つばめ』でうたわれる『ドレッタの夢』は、有閑マダムのサロンで、若い詩人が披露した自作の詩。ところが、「優しい娘ドレッタは、国王からの求愛も拒絶する。富は私を幸福にしない、と・・・」という先が未完成で続かない。そこで、マダム(マグダ)が、「そこへ一人の学生が現れ、熱烈な接吻を・・・」と続ける。それが現実になるのは、有閑マダムの誰もが抱いている(?)浮気心のせい?

 プッチーニの傑作『トスカ』の名アリア「妙なる調和」は、画家のカヴァラドッシが教会で聖マッダレーナの絵を描きながら恋人トスカに思いを馳せて歌う。が、絵のモデルは、教会にいつもやってくる「見知らぬ夫人」。トスカと見知らぬ夫人の二人の美しさが「調和し・・・」と歌う男は浮気者?
  そんな男に不信の目を向けるトスカと、それをなだめるカヴァラドッシの二重唱。女が嫉妬深いのか? 男が身勝手なのか?

 アメリカへ帰ったピンカートンが戻ってくることを信じて「ある晴れた日に」と歌う『蝶々夫人』のアリアを聴くと、女性の純情さに心を打たれる。もっとも、彼女はまだ15歳・・・。
  アメリカで正式にアメリカ人女性と結婚し、蝶々さんのもとに戻ってきたピンカートンは、家の前まで足を運びながら、逢うのは忍びないと思い、「さらば、愛の巣よ!」と歌って立ち去る。なるほど男は身勝手なもの。

 そして、蝶々夫人は、ピンカートンとのあいだに生まれた幼子を抱きしめ、「さようなら、私の可愛い坊や」と歌ったあと、自害する。悪いのは間違いなく男です(この場合は、たしかに)。
  そんな『蝶々夫人』の続編ともいうべき『ジュニア・バタフライ』(三枝成彰・作曲/島田雅彦・台本)で「私は貴女の名前を知らない」と男が母(蝶々夫人)を思って歌う。男はつねにマザコン?

 ドヴォルザークの名作オペラ『ルサルカ』のアリア「白銀の月夜」は、王子に恋した水の妖精(ルサルカ)が輝く月に向かって王子の行方を訊ねる歌。女性(ソプラノ)の歌だが、役柄は妖精。妖精はたしかに純情です。
  チレーア作曲のオペラ『アルルの女』のアリア「ありふれた話」は「フェデリコの嘆き」という名で有名。農家の息子フェデリコはアルルで出逢った美女に恋するが、彼女は馬方の親方の情婦。母親は純情な娘と結婚させようとするが、アルルの女を忘れきれないフェデリコは、親の決めた婚礼を前に自殺。これもまた「ありふれた話」・・・?

 洋の東西を問わず、いつの時代も変わらず、苦しみ、悩み、騙し、騙され、永遠に続く男と女の愛の形。ならば一時の享楽を・・・と歌われるのが、ヴェルディの名作『椿姫』の「乾杯の歌」。男も女も愛の苦しさを忘れて・・・!
  しかし、苦しいから面白いんですよね。愛も・・・、人生も・・・。苦しみがなかったら、愛の喜びも人生の嬉しさも、半減どころか、きっと皆無。だから人は人を永遠に愛し続けるのかも・・・?
  そして今宵、愛の苦しみ、人生の辛さを一時忘れて、愛の歌声に酔うことにしましょう。

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