コラム「スポーツ編」
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掲載日2007-07-18

この原稿は、外国車輸入会社のヤナセのPR誌である『プレジール』2006年9/10月号に寄稿したものです。アジア・カップのオシム・ジャパンがどのような活躍をしたのか(あるいは、できなかったのか)、この原稿をアップする作業段階では、まだわかりませんが、結果はどうあれ、オシムのやり方を支持したいと思い、ここに“蔵出し”します。

スポーツとは合理的なもののはずなのに……

 今から40年ほど前、学校の課外活動でスポーツに励んでいた子供たちは、先生や先輩から次のような「指導」を受けたものである。
 「練習中には水を飲むな!」

 試合中も、もちろん水分は禁止。水を飲むと腹が痛くなり動けなくなる、というのがその理由だった。
 いま思うと、なんとも「非科学的な教え」というほかない。が、先生や先輩の命令は絶対だったから、子供たち(私たち)は、真夏の炎天下でも水を飲まずに練習に励んだ。

 いや、そうではない。先生や先輩の目を盗んで水を飲んだ。そういうズルを巧くやった子供が練習をこなし、プレイも上達した。
 そして「非科学的な教え」に従い、歯を食いしばって練習と取り組んだ子供は、消えていった(クラブを辞めるか、身体を壊した)。

 当時は、さらに多くの「誤り」が存在した。漫画『巨人の星』でも有名になった「ウサギ跳び」は、今では腰を痛めるとして禁止されている。が、昔は繰り返しさせられた。

 両足を伸ばして仰臥した上体を起こす腹筋運動も、やはり腰にかかる負担が大きすぎるため、今では両膝を曲げて行うのが常識になっている。が、昔は誰も疑問に思わず、腰を痛める腹筋運動を毎日させられた。

 それでも多くの子供たちが身体を痛めずにスポーツを続けることができたのは、みんな適当に練習をサボったからである。サボるのが巧い子供だけが「生き残った」。

 それは、バドミントンという少々マイナーなスポーツでインターハイを目指し、正月とお盆以外は毎日練習と取り組んだ「スポコン少年」の実感である。

 幸いインターハイに出場することができたのは、たしかに猛練習を繰り返したからでもあった。が、適当にサボったからでもあった。練習とは基本的にサボるものだった。

 これはまったく馬鹿馬鹿しい話である。
 目標(勝利)に向けて技術を向上させたいと思えば体力の向上が不可欠であり、そのために必要なトレーニングをサボることなど、本来考えられないはずだ。しかし、そのような「合理的(スポーツ的)思考」は一切教わらず、次のような「考え」を押しつけられた。
 「理屈を言うな。身体で覚えろ」

 私個人の体験だけでなく、現在中年と呼ばれる年齢に達している人々が若い頃に行ったスポーツとは、多かれ少なかれ、そのような「非合理的思考」に支配されていたはずだ。

 さて、ドイツでのワールドカップ・サッカーで惨敗を喫してしまった日本代表チームの監督に、ボスニア・ヘルツェゴビナ(旧ユーゴスラヴィア)出身の名将イビチャ・オシム氏が就任した。報道を通じて既に御存知の方が多いと思うが、オシム氏は、言葉を駆使する人物である。つまり、「理屈の人」である。

 「ライオンに襲われた野ウサギが逃げ出すときに肉離れをしますか?」
 「監督はブラシのようなもの。常にホコリを払わなければならない」
 「私が高齢だと? 何を言ってるのだ。人間は死ぬまで生きられる。私は今、生きてるではないか」

 名言を次々と発するオシム監督の就任で、日本のスポーツ界(や社会)から「サボる」ことが消え、「合理的(スポーツ的)思考」が広まることを期待したい。

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