コラム「スポーツ編」
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掲載日2007-05-14

この原稿は、5月4日付毎日新聞朝刊の『論点』に寄稿したもので、その後、高野孟氏の主宰するウェブ・マガジン《ざ・こもんず》にも公開しましたが、一人でも多くの方々に読んでいただきたいので、本欄でも公開します。

学校はスポーツを行う場ではない!
(これが小生がつけたタイトルでしたが、新聞紙上では「地域クラブの活性化を」とされました)

 まず最初に確認しておかなければならないことがある。それは、学校は(企業も)基本的にスポーツを行う場所ではない、ということだ。
 学校では学生や生徒の身体発育を助けるための体育(としてのスポーツ)は行われるべきだが、スポーツそのものを行うとなると話は異なる。

 スポーツで高いレベルを目指せば観客やファンが出現し、彼らの心を動かすヒーローも生まれ、金銭も動くようになる。それはスポーツの必然的結果といえる。
 日本のスポーツ界の不幸は明治初期に欧米から伝わったスポーツを行う場所がなく、欧米文化の受け入れ口となった大学を中心にスポーツが発展したことだった。そして師範学校等の教育機関を通じて全国の小中高校に広まった。その結果、体育とスポーツの区別が判然としなくなった。

 さらに日本の野球界にとっての不幸は、他のスポーツを数十倍も凌駕する絶大な人気を早くから獲得したことだった。明治の中期を過ぎると、のちに東京六大学となる学生野球に観衆は殺到し、大正期には中等学校野球(現在の高校野球)の全国大会も始まり、国民的注目を集めた。

 それらは明らかに「スポーツ興行」であり、学校体育からかけ離れたものだった。が、スポーツと体育の相違を正しく指摘する声はなく、学校以外にスポーツを行う場所もなく、教育機関がスポーツ興行を担い続け、人々にスポーツによる「感動」を与え続けた。

 その必然的結果として金銭も動き、利害も生じるようになった。野球の強い学校は人気も出る。ならば強い選手を(金品を使ってでも)集めようとするのは当然のことだ。

 スポーツとは本来、地域社会のクラブで行われるべきものである。クラブで高度な技量を発揮する若者がいて、彼の活躍が多くの観客を集め、ファンを喜ばせるとなれば、彼はプロとなる。契約金と年俸を得て野球に専念するようになる。また、そうなる可能性のある少年が下部の野球組織にいることがわかれば、クラブは先行投資としてその少年と契約を交わすだろう。そのとき下部組織の代表や監督は、その少年の代理人としてマネジメント料を受け取ることも当然といえる。

 しかし、そのようなプロを頂点とするスポーツクラブ組織の存在しない日本の野球界は、学校が、それを担うようになってしまった。もちろん学校は教育機関であり、そこで行われるスポーツは建前としては体育である。従って金品の授受は表向きには許されず、「裏」で行われるようになる。選手に対する特別な待遇も、表向きは禁止される。しかし高校野球や大学野球が、「スポーツ興行」である限り、それらの動きは止められない。

 解決策はただ一つ。教育機関でのスポーツ興行を廃止し、メディアによる興行化も廃止し、将来的に若者たちが野球を行う場としての地域クラブの創設と整備を開始すること。手始めにNHKによる高校野球の全国中継の廃止あたりから始めてはどうか。

*****

<追記>

 最近の論調では、「他のスポーツで認められている特待生制度が高校野球だけ認められていないのはおかしい」という声が大きいが、それは高校野球部を「プロ化」させることにほかならない。

 高野連と朝日新聞社の「建前」(高校野球は教育)と「本音」(甲子園大会の人気拡大と新聞の拡販)の落差にはうんざりさせられるが、日本テレビ(読売新聞)と高校サッカー、TBSと毎日新聞による高校ラグビーやセンバツ、フジテレビと春高バレー……等も、同類といえる。

 教育機関によるスポーツ興行が、メディアにとっての優良コンテンツとして存在し、それを否定できないメディア(ジャーナリズム)のなかで、「スポーツ本来のあり方」が問い直されることなく、「他のスポーツと同様、高校野球も特待生を認めろ……」というのは、教育機関に教育を逸脱した行為を求めると同時に、日本のスポーツ界の健全な発展を阻害するもの(学校スポーツというかぎられた偏狭なマーケットに封じ込めるもの)であり、そのような誤りを自ら糺そうとせずに、既得権にしがみつき(「優良コンテンツ」を保持し)、教育機関を利用した利益の追求に走るメディアの責任は重いといわざるを得ない。

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