コラム「スポーツ編」
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掲載日2005-02-07

この原稿は『スポーツ・ヤァ!』(角川書店・発行)109号(2005年1月6日発売号)に掲載されたものです。2005年が幕を開けてちょっと時間を経たところで“蔵出し”します。

2005年日本スポーツ界展望〜「真の新時代」の到来に向けて

 新時代到来! 
 これまでに何度その言葉を聞いたことだろう?
 昭和58年、西武ライオンズが初優勝し、以来12年間に10度のリーグ優勝、8度の日本一を記録したとき、投打の要として大活躍した工藤公康と石毛宏典が、お立ち台に立つたびに漫才のような掛け合いコメントで大観衆を笑わせ、メディアは「新人類誕生」「新時代到来」と騒いだ。
 いや、「若大将」ともてはやされた原辰徳が東海大学から巨人に入団したときも、中畑清が「長嶋U世出現」と騒がれたときも、新しい時代が幕を開けたと誰もが錯覚した。

 プロ野球界だけではない。若貴兄弟が国技館の土俵で大暴れしたときも、スキー複合の荻原健司がオリンピックの表彰台の上でビールかけをしたときも、はたまた古くはゴルフ界に「サイボーグ」と呼ばれた中嶋常幸がデビューしたときも、多くの人々が新時代の到来と早とちりした。
 その後西武ライオンズは、強くはあってもファンの支持は薄く、いまは球団売却に揺れている。他の「スター」たちも、日本のスポーツ史にその名を刻みはしたが、「新時代」を牽引したわけでなく、時代の流れに押し流され、美しく去っていった。
 日本のスポーツ界に「新しい時代」は未だ訪れていない。「新しい時代」という幻想が撒き散らされるなかで、強固な「古い時代の旧制度」(アンシャン・レジーム)が継続している。

 では、そもそも「新しい時代」とは何なのか?
 それは十余年前、日本のスポーツ界のなかで唯一「新しい時代」の幕開けに成功したサッカー界の事情を見れば、誰にも容易に理解できる。
 日本サッカー界の開いた「新時代」とは、改めていうまでもなくJリーグである。Jリーグは、地元住民と地元企業と地方公共団体が支え合う地域密着のクラブチームを育て、日本代表チームが世界へ飛翔することを後押しすることを目的に創立された。

 その二つのコンセプトこそ「新しい時代」への扉を開く鍵といえる。それに対して「古い時代」とは、親会社の利益のため、あるいは母校の栄誉のため・・・といった企業野球、学校体育の枠組みを強固に守り続けてきた。
 とはいえ、時代の流れのなかで、もはやそのような「古い枠組み」では日本のスポーツも成り立ちえないことが、昨年明らかになった。

 親会社の利益のためには「縮小均衡」(1リーグ化)が最適と判断したプロ野球界の経営陣は、日本の野球のより大きな発展を願う選手とファンの声に押され、2リーグ制の維持を余儀なくされた。さらに今後は、「地域密着」と「世界への飛翔」を視野に入れた運営にも手を付けざるを得なくなった。
 その先兵として、楽天、ソフトバンク、さらに参入をあきらめていないライブドアといったIT企業が、どこまで真に「新時代」のコンセプトを打ち出せるのか。また古田会長をリーダーとする選手会も、「雇用の確保」(12球団制維持という昨年の成果)に満足することなく、ファンとともにどこまで新たな「メッセージ」を発することができるのか。それこそが、プロ野球の今季の課題といえるに違いない。

 球界全体でプロ野球のあるべき未来の青写真を打ち出すことができれば、選手のプレイも熱のこもったものになるはずだ。今季からセ・パ交流試合も行われるプロ野球だが、目新しさだけでファンの支持を得ることは期待できない。
 巨人とさえ試合ができれば、と、交流試合を望んだパ・リーグも、人気凋落傾向に加えて今なお長嶋親子に頼る「古い時代」の感覚を引きずり続ける巨人には(今のところ)「新時代」を切り拓く力があるとは思えないのだから・・・。

 アテネ五輪でメダル・ラッシュを果たした日本の柔道界も、「新時代」への扉を開き、新しい一歩を踏み出したといえる。
 それも、「メッセージ」がきっかけだった。
 英語を身につけた山下泰裕氏がアテネ五輪会場の役員席を忙しげに動きまわる姿はテレビ画面に何度も映し出された。シドニー五輪では英語を操れる人物が存在せず、篠原選手が「誤審」で金メダルを逃したことに何の手も打てなかった柔道界は、その反省から世界へ向けて「世界共通語」で「メッセージ」を発することに努めるようになり、それがアテネでの成果にもつながった、といえるのだ。

 このような「外交力」を身につけようとした努力は、他のスポーツ界も見習うべきものといえる。とりわけ女子選手の成長著しく、トリノ冬季五輪での上位独占も夢ではないフィギュア・スケート界は、採点競技であるだけに、「世界へのメッセージ」をいかに発することができるかが焦点になるだろう。
 また、W杯アジア最終予選で、国家間に大きな課題を抱える北朝鮮と同組になったサッカー界も(ジーコ監督の采配や選手のプレイとともに)、今年は「外交力」の問われる事態が訪れるに違いない。
 さらにスペインリーグ・マヨルカへの移籍が決まった大久保をはじめとする海外で活躍する選手たちも、ただジーコ監督に招集されるから試合に出るのではなく、協会と監督の方針やスケジュールの組み方などに関して、自らの意志を主張すべきときが訪れるだろう。

 あらゆる局面で「メッセージ」が求められている。
 過去に何度も騒がれた「新時代の到来」とは異なる「真の新時代の到来」に向けて、機は熟しているのだ。
 スポーツマンたちが、ただ消費され続けるだけのスポーツではなく、みんなでともに創りあげる文化としての日本のスポーツ――その未来像は見えている。地域密着と世界への飛翔。そのためには、すべての人が「メッセージ」を発すること。

 スポーツマンがただスポーツをやればいい時代は終わった。スポーツ関係者が、ただスポーツを提供すればいい時代は幕を閉じた。スポーツ・ファンがただ興奮して騒ぐだけの時代も過去のものとなった。
 誰もが建設的な「メッセージ」を発し、意見を主張し合うこと。それが「真の新時代」への道筋であり、2005年は、そうして生み出されるに違いない「日本のスポーツ文化」の土台が築かれる年になってほしいと思う。

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