コラム「スポーツ編」
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掲載日2004-11-01

この原稿は、今年の5月上旬に発売された『スポーツ・ヤァ!』(角川書店)の連載コラム『玉木正之のスポーツ文化発信所』に掲載されたものです。中日ドラゴンズのリーグ優勝を記念して(日本シリーズは負けてしまったけれど)、ここに蔵出し!

中日ドラゴンズ監督・落合博満の「確信」

 23年前の1981年。プロ野球は開幕前から例年以上の盛りあがりを見せていた。
  というのは、東海大学の若大将・原辰徳がジャイアンツに入団したのを筆頭に、プリンス・ホテルの実力派・石毛宏典がライオンズへ、同じく即戦力捕手の中尾孝義がドラゴンズへ、そして甲子園優勝投手の愛甲猛がオリオンズ(現・マリーンズ)へ・・・と、スターの輝きを放つ有力新人が一斉にプロ入りしたからだった。
  いったい誰が、どのくらいの活躍を? と考えるだけで胸がわくわくした。

 当時、駆け出しのスポーツ記者だったわたしも、キャンプが始まると、有力新人選手を片っ端から取材してまわった。そして川崎球場を訪れ、練習を終えた愛甲選手がシャワーから出てくるのを待っていたときのことだった。
  腰にバスタオルを巻いたオリオンズの選手たちが、次々とシャワールームからロッカールームへ出てくるなかで、とつぜん見知らぬ一人の選手に話しかけられた。
「取材なの? どうせ愛甲なんでしょ」

 その斜に構えた口の利き方に、わたしが少しばかりムッとしながら頷くと、その男は「いいよなあ、若くって」といったあと、濡れた髪の毛をバスタオルでゴシゴシ拭きながら、一人勝手に話を続けた。
「18だよ、まだ18歳。若くって、未来はいっぱいですよ。それに較べたらオレなんて、もう28だからね。今年くらいは何とかしなくちゃ、プロになった意味がないよ」

 ぺらぺらと一人で喋るその男に向かって、ちょっと反撃を加えてやろうと思ったわたしは、「何とかするって、何ができるの?」と訊いてみた。するとその男は、飄々とした顔つきのまま、こういってのけた。「首位打者を獲るよ」
  髪の毛を拭き終えた男がバスタオルを放り投げたロッカーの上には、「落合」と書かれた名札が付けられていた。わたしは、唖然としながら、この男が落合か・・・と、思ったことを今も記憶している。

 その名前の男が、元東芝府中のスラッガーで、全日本チームでも4番を打ち、インターコンチネンタル・カップで大ホームランを放ったことは知っていた。26歳でプロ入りし、1年目は啼かず飛ばず(36試合2本塁打)。2年目の昨シーズンは後半から一軍で活躍しはじめた(57試合15本塁打2割8分3厘)が、当時の山内監督に「プロでは通用しない」と烙印を押されたこともスポーツ紙で読んでいた。そんな男の突然のまったくプライベートな(といえる)「宣言」に、開いた口がふさがらなくなった。

 が、もっと驚いたのは、その年のシーズン終盤、彼がゴールデン・ルーキー石毛宏典と熾烈な首位打者争いを演じ、最後に3割2分6厘(33本塁打90打点)で本当に首位打者を獲得してしまったときだった。
  以来、わたしは、「落合のいうこと」は、すべて信用することにした。翌年、彼は「三冠王を獲る」といって、三冠王を獲った。そのあと、「三冠王は3度獲る」といって、じっさい3度の三冠王に輝いた。

 そのとき、わたしは、もはや驚くことはなかった。何しろ、無名時代に「首位打者を獲る」と口にしたのが、記者会見の席でもなければ大勢の番記者に囲まれての発言でもなく、偶然出逢った駆け出しの雑誌記者に向かって口にしたものだったのである。
  それがリップサービスでないことは確かで、目標を公言することで自分を追い込むとかヤル気にさせるという効果があるとも思えない。要するに、彼には「確信」があったのだ。年齢的に「何かしなければ」と思うなかで、前年後半の活躍によってつかんだ確かな自信。その確信は、彼にとって間違いなく確かなものだったから、ちょっと誰かに話してみたくなったのだろう。

 三冠王宣言の場合も、彼をとりまくマスコミが多くなっただけのことで、おそらく彼は確信のない言葉を絶対に口にしない。今季ドラゴンズの監督となった彼は、「補強をしなくても、現在の選手がレベルアップすれば優勝は可能」と語った。それも「確信」に違いない。
  もっとも、現役選手時代の落合は、自分の身体で「確信」を掴み取ることができた。オリオンズ時代には毎年の春の鹿児島キャンプで、1時間を超す特打を行っていた。が、監督としては選手にさせるほかない。だから「優勝は可能」という言葉に「選手のレベルアップができれば」というエクスキューズが加わったのかもしれない。

 4月末の時点で、落合ドラゴンズは好位置に着けている。はたして今後、シーズン中の「選手のレベルアップ」をどれくらい「させる」ことができるのか? 
  今シーズンは、観客動員が減っているといわれるが、じつは(セ・パともに)なかなかに面白いペナントレースである。

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