コラム「スポーツ編」
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掲載日2005-10-17

この原稿は、『スポーツ・ヤァ』(角川書店・刊/126号9月8日発売号)の連載コラム「玉木正之のスポーツ文化発信所」に寄稿したものです。今年はいろいろと「高校野球の暴力事件」が噴出したので、ちょっと早いですが、少々手を加えて、ここに“蔵出し”します。

高校野球の「教育」が「暴力」を生む

 「スポーツ選手は罰の体系のもとで機能している」
 そのように喝破したのはアメリカのスポーツ心理学者であるデューカス・スーザン・バットであり、彼女は、そのようなスポーツのあり方を、最も「非スポーツ的」なものとして非難した(『文明としてのスポーツ』(日本経済新聞社・刊より)。

 プレイでミスをすれば腕立て伏せ20回。集合時間に遅れたらグラウンド10周・・・。そのような「罰」が課されると、何のためにスポーツをプレイしているのか、何のために規則を守るのか、といった理由は忘れられ、選手は、ただただ「罰」を恐れ、その「罰」を回避しようとしてプレイするようになる。

 さらに、「罰」は「体罰」へとエスカレートし、スポーツ選手は指導者の「暴力」を恐れ、文字通り必死になってプレイするようになる・・・。
 そのようなスポーツにおける「罰の体系」で、最も陰惨だったのが、サダム・フセイン政権下のイラクのスポーツ選手だった。

 サッカー・ファンなら誰もが知ってる「ドーハの悲劇」で、日本代表チームは試合終了直前イラクに得点され、W杯(1994年アメリカ大会)への初出場を逃した。
 そのとき、イラクはその試合の勝敗にかかわらず、既にW杯への出場が絶たれていた。が、当時のイラクのスポーツ界を牛耳っていたサダムの弟ウダイ・フセインは、チームの不甲斐なさに激怒し、最後の日本戦に敗れたら、「罰」として鞭打ちの刑か、兵士として戦場の最前線へ送ることを、選手全員に伝えていた。

 そして敗戦が目前に迫ったとき、生死に関わる「体罰」を恐れた選手たちは、火事場の馬鹿力ともいうべき力を発揮し、日本代表チームとサポーターを奈落の底へ突き落とすような得点をもぎとったのだった。
 これは「極端な例」かもしれない。が、けっして「例外」ではない。

 ウダイが用いた「暴力」も、駒大苫小牧の野球部長が高校生の部員に向かってふるった「暴力」も、スポーツにおける「罰の体系」としては、同じ意味合いを持っている。
 それは、どっちも、スポーツをやること以外に別の目的があった、ということである。

 スポーツをやる(勝利を目指す)こと以外の目的(勝利を得ることによって得られる別の利益)をスポーツに持ち込むと、何としてでもその目的を達成するために、スポーツ以外の手段、すなわち「罰」や「暴力」が持ち込まれることになる。
 ウダイの場合は、サッカーの国際試合にフセイン政権下のイラク国家の威信やウダイ自身の栄誉といった目的を持ち込んだ。
 そして高校野球には、野球をやること以外に高校生の「教育」という別の目的が謳われている。

 スポーツにきわめて教育的な要素が存在することは明白な事実といえる。
 努力をすれば成長することが実感できたり、困難を乗り越える精神力を養えるのは、スポーツの有する教育的美徳といえる。が、そういう教育的要素は、スポーツに思い切り打ち込んだ結果として得ることのできる、いわば副産物にすぎない。つまり、思い切りスポーツに打ち込まないと得られないもの、といえる。

 スポーツとは基本的に遊びであり、楽しいものであり、楽しいから自発的に行われるものである。この基本が蔑(ないがし)ろにされ、「命令」や「罰」によってスポーツが強制されることになると、それはもはやスポーツとはいえない「別物」(体育?興業?)になってしまい、スポーツが自然に有している教育的要素も失われてしまう。

 そして「命令」や「罰」によってでもやらせなければならない目的(スポーツをやること以外の目的)が前に出て、「命令」や「罰」は、「体罰」や「暴力」へとエスカレートする。
 さらに「暴力」は「隠蔽」され、発覚したら「罰」が与えられ、「罰」を恐れて「隠蔽」する・・・という悪循環を生む。

 駒大苫小牧以外にも最近は高校野球部の暴力事件が続発している。
 その根本的原因は、高校野球に野球(スポーツ)をやる(楽しむ)こと以外の別の目的が存在しているから、といえる。高校の野球部は高校生の課外活動であり、演劇部や軽音楽部と同様、正式な高等学校教育ではないはずだ。

 にもかかわらず、高野連を初めとする高校野球関係者が「教育、教育」と連呼するのは、野球(スポーツ)に教育的要素が自然に備わっていることを知らないからか、あるいは、さらに別の目的(新聞の拡販?私学の宣伝?)が存在することを隠蔽したいからか?

 いずれにしろ、「教育」の連呼を止めないかぎり、高校野球の「暴力」と「罰」の連鎖は幕を閉じないだろう。
 今回の「事件」を受けて高野連は「暴力のない高校野球を目指して」と題した声明を発表した。「目指して」などと書かなければならない甘さは、もはや笑うほかない。どうして「暴力部長」や「暴力監督」をきちんと指導できないのか? それは、高野連自体が、「罰」をくだす頂上に君臨しているからにちがいない。
 高校の野球部の多くが高野連の下す「罰」を恐れて行動しているナンセンスに、高野連関係者は気づいていない(気づかぬふりをしている?)のか?

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