コラム「スポーツ編」
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掲載日2008-01-09

サッカー日本代表チーム岡田監督就任記念の“蔵出し”第3弾です。まったく残念なことに今は廃刊となってしまったスポーツ雑誌『スポーツ・ヤァ』(2006年6月のワールドカップ・ドイツ大会開催時の特別号)で5回に渡って行った岡田武史氏と連続対談第3回。日本代表がオーストラリアに大逆転負けを喫し、クロアチアにも勝てた試合を引き分けてしまい、ブラジルにも敗れて3連敗を喫した時点での対談です。

岡田vs玉木 ドイツW杯特別対談
第3回 「個人のサッカーの差がこんなに大きかったとは…」

玉木 岡田さんは、開幕前から今回のW杯では日本代表チームの「素の力」がわかるといわれてました。それはジーコ監督が選手の能力にまかせるだけで、いろんな細かい策を弄さないからでしょうが、ブラジル戦を見て、日本のサッカーの世界のなかでのレベル、選手の「素の力」をどのように評価されましたか?

岡田 はっきりいってショックだったよね。相手がブラジルとはいえ、もっといい試合をしてくれると思ってたのが、後半はブラジルの選手に気楽にボールをちょんちょんとまわされて、キーパーまで代えられて、なめられてしまったからね。「個人のサッカーの力」に、こんなにも大きな差があったのか…と。

玉木 「たら」「れば」は、いっても仕方ないでしょうが、オーストラリアに1−0で逃げ切っていたら、あるいはブラジル戦の前半を1−0のまま折り返していれば、もう少し良い試合になったのでは……。

岡田 それはそうだろうけど、条件によって表面に出てくる「素の力」にも何段階かあって、最悪の条件のなかで最大の力の差が露呈してしまった、ということですよ。

玉木 その「素の力」の「最大の差」を技術的にいうなら、何になりますか?

岡田 それは「精度」の違いでしょうね。攻守にわたる技術の精度の違い。たとえば、日本の選手でも、10本に1本くらいはロナウジーニョ級のパスや突破ができるんです。でも、ロナウジーニョは、それを10本のうち7本くらいやってのける。そういう確率の差が、試合における精度の差となって大きく現れた、ということですね。

玉木 それは、技術的な問題というだけで解決がつくのでしょうか?

岡田 もちろん試合になれば相手のプレッシャーが強くかかってくるわけで、俊輔とか小笠原なんかは、フリーにさせてもらえば見事な技術を見せるけれど、プレッシャーに対しては弱かった。とくにブラジルの選手なんかが相手となると、ごまかしがきかない。W杯レベルの闘いとなると、単なる技術だけじゃなくて、体力的にも精神的にも強い選手を選ばないといけない。そのことが、今回「素の力」を見せてもらったおかげで、僕自身、良い勉強になりましたよ。

玉木 いま精神的という言葉を使われましたが、今回のW杯の日本代表は、オーストラリア戦での試合終了直前や、ブラジル戦での前半で同点にされたあとなど、精神的な脆さが露骨に感じられました。その逆境から、もう一度がんばろうという精神力がまったく伺えなかったですね。

岡田 選手は、やる気がないわけじゃない。ただ、僕が代表監督をやったときにも感じたことだけど、いまの若い選手は、そのやる気を表面に出さないし、どんなふうに出していいのか知らないし、淡々として冷めてるよね。だから何度もコノヤローと思って、実際に怒ったこともあった。トルシエも、そういう選手を殴ったり、引っ張りまわしたりして、やる気を出させた。けど、ジーコの「自由なサッカー」のもとでは、そういうリーダーシップを担わされたのがヒデ(中田英)だったわけで、チームの内側を知らないからよくはわからないけど、どこかちぐはぐだったよね。ヒデがリーダーシップを発揮しきれなかったのは、ヒデ自身に責任があるのか、周囲の選手に責任があるのか、僕にはよくわからないけど…。

玉木 精神的リーダーシップというのは、実際の試合のピッチの上では、どのような形となって現れるのでしょう?

岡田 たとえばブラジル戦では、2点差以上で勝たなければいけないという条件があったのに、前半ロスタイムで同点にされ、後半さらに追加点を取られた。そんなとき、ボールを持ってるブラジルに対して、目の前の選手はプレッシャーに行くけど、ちょっと離れた選手は動かなくなる。自分ではがんばってるつもりでも、どこかで緊張の糸が切れていて、アグレッシヴな動きが消えている。そうしてチームの選手全体の足が止まる。そんなときに、「何やってるんだ!あきらめずに、みんなでボールを奪え!」と声をかけて全員でボールを奪いに行かせる。そういうリーダーシップをとる選手がいれば、チーム全体が動くんですが…。

玉木 近年は「根性」という言葉の悪い面ばかりが強調されて、日本のスポーツ界では、根性論を口にしにくくなった時期が続きましたよね。たしかに、技術を無視した根性だけではナンセンスでしょうが…。

岡田 日本人のメンタリティといえるのかどうか知りませんが、断崖絶壁に立たされたときは火事場の馬鹿力を出すんだけど、目標が途絶えた瞬間、ガクッと緊張の糸が切れてしまう。

玉木 一次リーグ突破が不可能と思えた瞬間、選手の動きがガクッと落ちましたね。

岡田 98年のフランス大会のときも、アルゼンチンとクロアチアに0−1で2連敗したあとのジャマイカ戦は、選手のモチベーションを保つのが難しかった。表面的にはやる気を出してるように見えても、動きが全然違う。ところがジャマイカは、同じく決勝トーナメント進出は消えて、しかもアルゼンチンに0−5で負けたチームなのに、持てる力を出そうと動いてくる。まあ、そのときは、僕が決勝トーナメント進出という目標を強くいいすぎた結果、その目標が消えてモチベーションがなくなったのかもしれないけど、どんなときでも必死になって自分のベストを尽くすという気持ち、そういう精神力を養う必要があるでしょうね。

玉木 日本人は、練習試合とか重要な意味を持たない試合では気を抜く癖がありますね。以前、ビートたけしさんがラモスのチームと練習試合をしたときに、ラモスがあまりにも激しくプレイするので、遊びなんだからちょっとは手を抜けと思ったけど、日本人とはメンタリティが違う、という話を聞いたことがあります。

岡田 どんなときでも勝とうと思う気持ちを強く持つというか、そういう精神面の重要性は、現在では指導者レベルでは多くの人が認識して指導にあたってますが、選手レベルには、まだ浸透していないのかな…。

玉木 それは日本人のメンタリティそのものの改造にも関わることかもしれないので難しいとは思います。が、東京やメキシコでのオリンピックのときに日本のサッカーを指導したデットマール・クラマー氏は「ヤマトダマシイ」という言葉をよく使われたそうです。「ヤマトダマシイを見せろ」と。

岡田 そうだったらしいね。

玉木 それに日本の武士の文化にも詳しかったらしく、「残心」という言葉まで選手に教えたそうです。「残心」とは武士道のひとつで、倒したと思った相手でも最後の力を振り絞って反撃してくるかもしれないから、相手が最後の息を引き取るまで用心深く心を残しておかなければならない、という意味だそうです。

岡田 その話は聞いたことがありますよ。選手にそういう精神力を発揮させるのに、どういう言葉や表現が適切なのかはわからないけど、今回のW杯での日本代表の試合を見た誰もが、日本のサッカーに欠けてるものを具体的に認識することができ、技術面でも精神面でも数多くのことを学んだわけです。だから、ここから再スタートを切る以外にないですよ。この敗戦を、誰もが常に思い出しながら…。

玉木 ジーコ采配批判も出てますが…。

岡田 今更いっても…(苦笑)。ブラジル流のやり方で相手が弱いときには通じたけど、W杯となると日本にはカカやロナウジーニョがいなかったというだけだから…。

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