コラム「スポーツ編」
HOMEへ戻る
 
表示文字サイズ選択:
標準
拡大
掲載日2006-11-21

この原稿は、2000年春に新潮社から一度だけ発行されたスポーツ・アルマナック『WINNERS』に「コラム」として寄稿したものです。情況は、現在少しばかり変わっていますが、その変化を考えるうえで面白いと思い、当時の原稿のまま“蔵出し”します。

日本の野球選手はなぜアメリカを目指すのか?

 99年のオフシーズンにベイスターズの佐々木投手のシアトル・マリナーズ入りが決定し、日本人として10人目の大リーガーが誕生した。95年にバファローズの野茂投手がドジャース入りして以来、長谷川、伊良部、吉井など、多くの日本人プロ野球選手(投手)がアメリカ大リーグを目指すようになった。これは、より高度なプレイを目指して技術的にレベルの高い選手が集まっているリーグに挑戦するという意味において、サッカーのプロ選手(Jリーガー)がイタリアのセリエA等のヨーロッパのプロ・リーグに加わることと、同じ現象といえる。が、プロ野球選手の場合は、少々事情が異なる点もある。

 それは、サッカー選手が国際組織(FIFA)のなかの一員として活動し、日本代表チームへの参加とワールドカップでの活躍を最終目標としているのに対して、野球の場合はそのようなプロの国際組織が存在せず、あくまでもアメリカ大リーグが最高の目標になっている点である。しかもアメリカに次いで世界第二の野球発展国といえる日本のプロ野球組織が、「企業スポーツ」の域にとどまり続け、世界のスポーツ界のあり方から見ると「異状」といえる組織運営になっている点も見落とせない。

 日本のプロ野球は、1936(昭和11)年のリーグ戦発足時にはアメリカ大リーグを手本とし、球団は本拠地都市の象徴として市民に支えられるなかで野球の発展をめざす方針が打ち出された(そのため球団名にも、東京ジャイアンツ、大阪タイガース等の都市名が冠せられた)。しかし、戦後、マスメディア(テレビ)の発達のなかで、読売新聞社・日本テレビという巨大メディアを親会社とするジャイアンツ球団のみが全国規模の莫大な人気と利益を生むようになった。

 その一方で他球団(とくにパ・リーグ球団)の経営が極端に悪化。巨額の累積赤字のなかで親会社の変更(球団の売却)が相次ぎ、プロ野球は「市民の象徴」という初期(所期)の目的から離れ、親会社の宣伝媒体(赤字は宣伝費)ととらえるようになった。

 その結果、新聞の販売拡張とテレビの視聴率の向上を目的とするジャイアンツを頂点に、日本のプロ野球は「日本野球の発展」以上に親会社の利益を追求するようになり、外面的な人気(メディアの報道)とは裏腹に、停滞を続けることになる。
 その停滞ぶりは、アメリカ大リーグの発展と比較すれば一目瞭然で、1950年にはアメリカン・ナショナル両リーグ16球団で各リーグの優勝チームがワールドシリーズを闘っていた大リーグは、1999年には30球団に増加。

 二つのリーグも東・中・西の三地域に別れて優勝争いを行い、プレイオフ、リーグ・チャンピオンシップ、ワールドシリーズを順次行うシステムで人気(観客動員)も上昇した。また、全国ネットのテレビ放映権料を一括してコミッショナーが管理し、各球団に平等に分配するシステムを確立したうえ、収入の多い大都市球団が収入の少ない地方都市球団に収入の一部を分配する制度(レベニュー・シェアリング・システム)を導入。

 さらに、ヨーロッパ、南アメリカ、アジアをマイナー・リーグ地域ととらえ、全世界から優秀な選手を大リーグにスカウトする世界戦略を採用し、アメリカ野球界全体の発展を遂げている。その結果、選手組合の諸要求にも答えられるようになり、フリーエージェント(FA)制度の導入等選手の待遇は改善され、年俸1千万ドルを超える選手が続出するようにもなった。

 それに対して親会社の利益のみを追求してきた日本のプロ野球は、球団の増加やマイナーリーグ(二軍)の整備など眼中になく、ドラフト制度の改革(逆指名の導入)やFA制度の導入も球界運営で主導権を握るジャイアンツが有力選手を獲得するための方策にしかならなかった。観客動員数の正確な発表もないためプロ野球全体の人気の動向すらわからないなかで、オリンピックへのプロ選手派遣も意見の一致を見ず、選手は交渉に代理人を立てるという正当な権利すら行使できないでいる。

 横浜や広島といた市民球団を目指すチームも存在するが、巨大なマスメディアの力を持つジャイアンツが「全国制覇」をめざしているかぎり、日本のプロ野球に「改革」は期待できず、そのような「将来の目的のない日本の野球界」を離れてアメリカ大リーグを目指す選手が増加しているという現状は、いずれ日本のプロ野球が崩壊する前兆といえるのではないだろうか。

*****

 はてさて、この原稿を書いてから6年を経た現在、情況は変わったか?

▲PAGE TOP
バックナンバー


蔵出し新着コラム

野茂の功績と日本球界の課題

人類は4年に一度夢を見る

水着で「言い訳」をしたのは誰?

世界史のススメ

『玉木正之のスポーツジャーナリスト養成塾』夏期集中講座

Jack & Bettyは駅の前

五輪とは死ぬことと見つけたり

セールスマンの死

日本人野球選手のMLBへの流出が止まらない理由

深い衝撃

大学はスポーツを行う場ではない。体育会系運動部は解体されるべきである。

スポーツニュースで刷り込まれる虚構 <森田浩之・著『スポーツニュースは恐い 刷り込まれる〈日本人〉』NHK出版生活人新書>

メディアのスポーツ支配にファンが叛旗

スポーツと体育は別物

岡田vs玉木 ドイツW杯特別対談第5回(最終回)「W杯守備重視の傾向は今後も続く?」

岡田vs玉木 ドイツW杯特別対談第4回 「ブラジルは何故ロナウドを使い続けた?」

岡田vs玉木 ドイツW杯特別対談第3回 「個人のサッカーの差がこんなに大きかったとは…」

岡田vs玉木 ドイツW杯特別対談第2回「世界のランクBからAへ昇るには…」

岡田vs玉木 ドイツW杯特別対談第1回「追加点を取るという国際的意識に欠けていた」

巨人の手を捻る

中日ドラゴンズ監督・落合博満の「確信」(加筆版)

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第3弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第2弾!

300万ヒット記念特集・蔵出しの蔵出しコラム第1弾!

「朝青龍問題」再考

大相撲の改革の契機に

“日本のサッカー”は“現代日本”を現す?

スポーツとは合理的なもののはずなのに……

世界陸上と日本のスポーツの未来

デデューの「復帰」に学ぶ「カムバック」に必要なもの

特待制度は「野球の問題」か?

学校はスポーツを行う場ではない!

動き出すか?球界の真の改革

東京オリンピック〜戦後日本のひとつの美しい到達点

「八百長vs出来山」の大一番〜大相撲に『八百長』は存在するのか?

日本スポーツ界における「室町時代」の終焉

「水泳ニッポン」は復活するのか?

スポーツはナショナリズムを超えることができるか?

「歴史の重み」による勝利は、いつまで続く?

スポーツ総合誌の相次ぐ「廃刊・休刊」に関して考えられる理由

廃刊の決まった『スポーツ・ヤァ!』をなんとか継続できないものか!?

日本の野球選手はなぜアメリカを目指すのか?

日本のプロ野球と北海道ファイターズに未来はあるか?

私の好きな「スポーツ映画」

スポーツへの熱狂を肯定する

東京・福岡「五輪招致」のナンセンス?

政治と格闘した宿命のチャンピオン〜モハメド・アリ

日本のスポーツ界は「中田の個人の意志」を前例に

「求む。新鋭ライター」〜玉木正之の「第5期スポーツ・ジャーナリスト養成塾夏期集中講座」開講のお知らせ

1個のボールが世界の人々を結ぶ

「型」のないジーコ・ジャパンは大丈夫?

社会はスポーツとともに

「日本サッカー青春時代」最後の闘い

スポーツは、学校(教育の場)で行われるべきか?

常識を貫いた男・野茂英雄(日本人ヒーロー/1995年大リーグ新人王獲得)

「玉木正之のスポーツ・ジャーナリスト養成塾第4期GW期集中講座」開講のお知らせ

最近のプロ野球は面白くなった!

人生に「アジャストメント」は可能か?

「栄光への架け橋だ!」は、五輪中継史上最高のアナウンスといえるかもしれない。

スポーツの「基本」とは「ヒーロー」になろうとすること?

2005年――「2004年の奇蹟」(選手会のスト成功)のあとに・・・

アジアシリーズ日韓決戦レポート『日本の野球はどのように進化したか?』

2005日本シリーズに見た「短い闘い」と「長い闘い」

イーグルス1年目をどう総括する?

スポーツとは経験するもの? 想像するもの?

阪神電鉄VS村上ファンド――正論はどっち?

高校野球の「教育」が「暴力」を生む

『スポーツ・ヤァ!玉木正之のスポーツ・ジャーナリスト実践塾』進塾希望者への筆記試験

ナニワの乱痴気

スポーツが開く未来社会

タイガースって、なんやねん 第10回「星野監督・阪神・プロ野球/それぞれの未来」

タイガースって、なんやねん 第9回「この先は、どんな時代になるんやねん?」

タイガースって、なんやねん 第8回「ミスター・タイガースはおらんのか?」

タイガースって、なんやねん 第7回「誰がホンマのファンやねん?」

タイガースって、なんやねん 第6回「関西は「豊か」やからアカンのか?」

タイガースって、なんやねん 第5回「星野さんは、コーチやなくて監督でっせ」

タイガースって、なんやねん 第4回「球団職員にも「プロの仕事」をさせまっせぇ」

タイガースって、なんやねん 第3回「星野監督は当たり前のことをする人なんや」

タイガースって、なんやねん 第2回「今年のトラにはGMがおりまっせ」

タイガースって、なんやねん 第1回「今年はバブルとちゃいまっせ」

「関西・甲子園・タイガース」=バラ色の未来――あるタクシードライバーの呟き

第V期スポーツジャーナリスト養成塾夏期特別集中講座・配布予定資料一覧

失われた「野球」を求めて――「楽天野球団」は「新球団」と呼べるのか?

浜スタから金網が消えた!

わたしが競馬にのめり込めない理由(わけ)

プロ野球ウルトラ記録クイズ

島田雅彦vs玉木正之 対談 『北朝鮮と闘い、何がどうなる?』

野球は、なんでこうなるの?

投手の真髄――PITCHING IN THE GROOVE

「球界第二次騒動」の行方は?

2005年日本スポーツ界展望〜「真の新時代」の到来に向けて

日本のスポーツの危機

野球は「学ぶもの」でなく、「慣れ親しむもの」

ライブドア堀江社長インタヴュー「落選から西武買収まで、すべて話します」

球団・選手「金まみれ」の甘えの構造

地域社会に根ざすスポーツ

新球団『東北楽天ゴールデンイーグルス』に望むこと

闘いはまだまだ続く

中日ドラゴンズ監督・落合博満の「確信」

奇蹟は起きた!

さようなら、背番号3

プロ野球ストライキと構造改革

「メディア規制法」とスポーツ・ジャーナリズム

黒船襲来。プロ野球維新のスタート!

パラリンピックを見よう! 日本代表選手を応援しよう!

アテネ大会でオリンピック休戦は実現するか?

「NO」といえるプロ野球

プロ野球選手が新リーグを創ってはどうか?

買収がダメなら新リーグ

「逆境こそ改革のチャンス!」

あの男にも「Xデー」は訪れる・・・

F1― それは究極の男の遊び

「戦争用語」ではなく「スポーツ用語」を

スポーツは国家のため?

阪神優勝で巨人一辺倒のプロ野球は変わりますか?

「高見」の論説に感じた居心地の悪さ

原稿でメシを食ったらアカンのか?

アメリカ・スポーツライティングの世界

<戦争とスポーツ>

長嶋野球の花道と日本球界の終焉

スポーツを知らない権力者にスポーツが支配される不幸

ニッポン・プロ野球の体質を改善する方法

草野進のプロ野球批評は何故に「革命的」なのか?

理性的佐瀬稔論

新庄剛志讃江――過剰な無意識

無精者の師匠、不肖の弟子を、不承不承語る

誰も知らないIOC

日本のスポーツ・メディア

Copyright (C) 2003-2008 tamakimasayuki.com. All Rights Reserved. Produced by 玉木正之HP制作委員会. ホームページ制作 bit.
『カメラータ・ディ・タマキ』HOMEへ戻る