コラム「スポーツ編」
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掲載日2004-05-31

以下の文章は、毎日新聞(2003年8月22日付と同年12月26日付)のコラム欄『金曜カフェ』に掲載されたものです。イラク情勢が相変わらずキナクサイ臭いを漂わせているので、「戦争とスポーツ」に関する原稿を一挙2本“蔵出し”!

「戦争用語」ではなく「スポーツ用語」を

 ある週刊誌の見出しを見て仰天した。今年のオフシーズンに巨人「軍」は「戦犯」の「大粛正」を行うという。なんとも大袈裟な話である。いや、笑って済ませられない。それらの言葉はスポーツにそぐわない。スポーツへの正しい理解をねじ曲げる言葉である。

 一説によると、スポーツとは「権力闘争の非暴力化」(戦いによって支配者を決めていた社会が、話し合い=議会制民主主義に移行したこと)に従って生じた文化であるという。だから古代ギリシアや近代イギリスといった民主主義の発展した地域でスポーツも発展した。
 民主主義もスポーツも「戦いのゲーム化」であり、あらゆるスポーツが「敵を殺すこと」を絶対的に否定している。スポーツを行うことは、それだけで「反戦平和」の意思を示すことといえるのである。

 にもかかわらず我々日本人は、スポーツを語るときに「戦争」や「権力闘争」に関する用語を用いてしまうことが多い。「ゲームをプレイすること」を「試合を戦う」と表現したり、それを見ることを「観戦」といったり。はたまたチームの監督を長く続けることを「長期政権」と称したり。昨年の9・11テロ以前は、たかがサッカーのゲームを「聖戦」(ジハード)と呼ぶ人物までいた。

「サッカーは戦争である、という人がいるが、それは戦争を知らない人の言葉だ」と語ったレバノンのサッカー選手の言葉を、私は忘れられない(レバノン内戦をレポートしたBBCのドキュメント番組で見た)。
 我々日本人にとってスポーツは輸入文化。それだけにスポーツを語る言葉を持ち得ないまま、ゲーム化される以前の戦いの用語を用いてしまうのかもしれない。が、欧米からスポーツが伝播して百二十余年。そろそろスポーツそのものを語るスポーツ用語を意識的に用いるべき時期に来ているのではないだろうか。


スポーツは国家のため?

 あるスポーツ雑誌の表紙を見て驚いた。そこには、『すべては国家のために』と書かれていた。サッカーのヨーロッパ選手権(ユーロ2004)に関する記事のタイトルだった。
 これは見過ごせない。というか、誤りである。はたして、サッカーは「国家のために」行うものなのか? そもそも「国家」とは何なのか?

 国家とは『一定の領土とその住民を治める排他的な権力組織と統治権をもつ政治社会』(広辞苑より)のことである。
 が、その「排他性」を超越するところにスポーツの素晴らしさがあるはずだ。宗教も民族も国籍も国境も超え、誰もが参加できるチームを作り、新たに社会(国)を代表するチームで楽しむのがスポーツである。だから、ラモス瑠偉や呂比須や三都主が日本代表としてプレイできるのだ。

 つまり、サッカーをはじめとするスポーツのナショナル・チームは、「国家」という「政治社会」のためにスポーツを行うのではなく、チームそのものが「国」や「社会」を象徴しているのだ。
 フランス代表チームにアフリカ系の選手が多いのも、フランス社会の実状を表すものであり、日本代表チームに得点力(ゴールを奪う貪欲な意欲)が欠けるのも、我々日本人の現在の特性といえるだろう。

 スポーツを「国家のため」と書くのは政治的意図があるのか?そうでなければ、スポーツ・ジャーナリストとしてあまりにも安直で誤った表現というほかない。
 そういえばイラクで亡くなった外交官がラガーマンだったことから、「自己を犠牲にして他者を助けるラグビー精神」と表現した元首相がいた。この発言も、スポーツの政治利用か、ラグビーの戦法を「犠牲」としか理解できないスポーツ音痴の妄言というほかない。
 日本人のスポーツ理解は、まだこの程度なのだろうか?

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