コラム「スポーツ編」
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掲載日2005-03-08

このコラムは『野球批評』(オークラ出版・2004年夏号vol.6)に寄稿したものです。今年のプロ野球もいよいよ開幕が近づき、一場、野間口・・・といった本格派新人投手の活躍が期待されているので、ここに“蔵出し”します。

投手の真髄――PITCHING IN THE GROOVE

CD

『フィールド・オブ・グルーヴス』

『フィールド・オブ・グルーヴス』

 世界的なジャズ・ピアニストで横浜ベイスターズの大ファンでもある山下洋輔さんが、昨年(2003年)ニューヨークのジャズ仲間とともに『フィールド・オヴ・グルーヴス』と題したアルバムを発表した。
 ジャケットにはドジャー・スタジアムの空撮写真。「グルーヴ」(グルーヴィ)とは、「かっこいい名演奏」という意味のジャズ用語である。

 そのアルバムのライナーノートを書くよう依頼されたのは、スポーツ・ライターとミュージック・ライターという二足の草鞋を履いている小生にとって最高の栄誉だった。そこで、研究社の大英和辞典を引っ張り出し、もういちど「グルーヴ」(groove)という言葉の意味を調べ直してみた。

 すると・・・俗語として「名演奏のジャズ」という解説のあとに、なんと野球用語として「本塁の真ん中を通る球すじ」と書いてあったのだ。“in the groove”は「本塁の真ん中を通って」という意味。つまり「グルーヴ」には「ど真ん中の直球」という意味もあるのだ。

 もともと「グルーヴ」とは「溝」のことで、レコードの溝に針がピタリと合って(CDしか知らない読者には理解しにくいでしょうが)いい音が出るところからジャズ用語が生じたらしい。ならば野球のピッチャーの最も「調子よくかっこいい溝(グルーヴ)」はど真ん中にある、ということになる!

 いや、これは何も力を入れていうほどのことではあるまい。野球ファンなら誰もが知っていることだ。少なくとも、かつては知っていたことだ。小生が餓鬼のころには、金田正一も米田哲也も、土橋正幸も森安敏明も尾崎行雄も、速球派といわれたピッチャーは誰もがど真ん中の直球で勝負していた。
 プロのピッチャーの投球は、完成したばかりの新幹線のひかり号よりも速い、と誰もが信じていた時代のことで、その後、村山実のフォーク、平松政次のシュートが出現したときは、「真っ向勝負ができんのか!」という野次が飛んだ。

 山口高志の豪速球には仰天したが、堀内恒雄と同様、高目のボール球で空振りを奪うことが多く、「コントロールが悪いなあ」と誰もが呟き、「グルーヴ」という言葉は知らなくても「ピッチャーのかっこよさ」の真髄に気づいていた野球ファンの餓鬼どもは、「やっぱり江夏が一番やで・・・」と呟きあったものだった。

 昔はよかった・・・といいたいのではない。
 バッターの技術向上もあって、ど真ん中の直球で勝負できる時代は終わった。しかし、それが最もグルーヴィな(かっこいい)ピッチングである、という意識までも失いたくはないものである。
 だから、ピッチャーではない我々野球ファンも、ズバッと、ど真ん中のナベツネめがけて豪速球を投げましょう!
(追記・ナベツネの消えた現在、「豪速球」は誰に向けて投げればいいのか・・・?ひょっとして、宮内?)

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