コラム「スポーツ編」
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掲載日2006-05-15

この原稿は、昨年末ドイツで行われたW杯組み合わせ抽選会で日本が「F組」に入った直後に書いたもの(今年1月6日に発売された『スポーツ・ヤァ!』134号に掲載されたもの)を少々手直ししたものです。いよいよワールドカップ開幕まで秒読み・・・ということで“蔵出し”します。

「日本サッカー青春時代」最後の闘い

 オギャア! と生まれた赤ん坊が20年経てば成人式。そう考えると20年という時間もけっして短いものとはいえない。しかし、それでもやはり、「わずか」という言葉を使いたい。わずか20年・・・。
 わずか20年前、我が国・日本には、サッカーなど存在しなかった。

 もちろん熱心にサッカーを愛し、献身的に応援していたファンは存在した。が、それは、ほんのごく少数で、JSLの試合を見に行くと、千人にも満たない観衆の空席ばかりが寒々と目立つ国立競技場で、カズやラモスや加藤久が走りまわっていた。

 もちろんワールドカップのことなど話題にもならなかった。
 メキシコ大会アジア予選(85年)のときだけは、ひょっとして韓国に勝てるかも・・・という期待のなか、国立競技場を満員にするサッカー・ファンが集まった。
 が、その6万余の観衆以外の大多数の日本人は、阪神タイガースの21年ぶりの優勝や王巨人の衰退を語っていた。

 90年のイタリアW杯では、NHKが巨人監督を解任された王貞治を決勝戦のゲスト解説に招き、「サッカーの野球との一番の違いは手が使えないことですね」といったコメントを流していた。

 わずか15〜20年前、我々大多数の日本人にとって、サッカーとワールドカップは、その程度の存在だったのだ。それが、93年のJリーグ誕生によって状況が一変し、98年のW杯フランス大会での初出場、02年の日韓共催を経て、いまやプロ野球以上に全国民の注目を集めるようになった。
 そして、3度目の「大興奮」の日々が間近に迫ってきた。

 メディアは日韓大会に続くグループリーグ突破を期待し、あわよくばベスト8も・・・と期待を煽る。しかし、忘れてならないことがある。それは、日本のサッカーが、まだ成人式を迎えるかどうかという青春時代にある、という事実である。

 草創期のJリーグのバブル人気に後押しされながら、「ドーハの悲劇」によるあと一歩のところで初出場を逃したアメリカ大会。「ジョホールバルの奇蹟」で初出場を果たし、1勝1敗1引き分けによるグループリーグ突破に挑んだものの、格下のはずだったジャマイカにも敗北する3戦全敗に終わったフランス大会。
 主催国の地の利も働いてグループリーグ突破を実現しながら、目標達成に満足したためか、さらに勝ち進めたはずの試合を落としてしまった日韓大会。

 決定力のなさ・・・、信じられない凡ミス・・・、大事な場面での集中力の破綻・・・。なるほど、我らの日本代表チームの「過去」を振り返ってみるなら、いかにも少年期・思春期というほかない無鉄砲さと未熟さと初々しさに満ちた道程を歩んできたといえる。無心に、無邪気に、懸命に歩んできたその道程は、まだまだ「経験」や「蓄積」と呼べるほどの「過去」ではない。

 そしてようやく思春期を脱し、成人式を迎えようとしている日本代表チームは、ドイツで、オーストラリア、クロアチア、ブラジルという強豪と闘うF組に入った。
 隣の芝生は綺麗に見える・・・というわけでもあるまいが、フランス、スイス、トーゴと対戦するG組に入った韓国を羨んでも仕方ない。そんな「偶然」もまた、日本より10年も早くプロリーグを組織し、6度もW杯に駒を進めた経験を有する壮年期のチームのアドヴァンテージといえるかもしれない。

 そう考えると、名将ヒディングの率いる今大会随一のダークホースとの対決も、ヨーロッパで安定した高い実力を誇るチームへの再挑戦も、そして世界ランキング1位にして優勝候補ナンバーワンのチームにぶつかることも、まさに思春期を脱皮して成人へと成長する瞬間を迎えたチームにふさわしい組み合わせとなった。

 大人の男になるためのイニシエーション(通過儀礼)として、サッカーの神様は、じつに見事な試練を与えてくれたものだ。
 しかも、青年期を脱しようとするチームを率いるのはジーコである。選手に自覚と自立を促し続け、選手の判断に任せ、彼らの想像力と創造力を引き出すこと――すなわち、選手に「大人になること」を求め続けた監督のもとで、日本代表チームはイニシエーションに臨むのだ。

 はたして結果はどうなるのか? 先輩諸国のすべてが、76年の歴史を誇るW杯の「一員」として認知するような闘いぶりを示してくれるだろうか? 100年を超えるヨーロッパの近代フットボール社会から、確固たる成員として認められるような試合を見せてくれるだろうか?

 それは誰にもわからない。未来を予測することは不可能だ。しかし、過去の闘いぶりを振り返るなら、期待は十分できるといえよう。過去の日本代表はまだまだ若く青かった。とはいえ、確実に成長してきた。

 それに、今度こそ「本番」である。選手自身に考えさせ、我慢して成長を見守り続ける時は終わった。ジーコも、そして日本代表を支えるスタッフも、周到な準備、怜悧な分析、狡智な戦術の組み立てを、まさか怠るわけはあるまい。そして、イマジネーションとクリエーションにあふれたプレイを見せてくれるに違いない。

 その結果が0勝3引き分けによるヨレヨレの決勝トーナメント進出となろうが(クロアチアとオーストラリアがともに0勝1敗2引き分けの場合)、2勝1敗による涙のリーグ戦敗退となろうが(ブラジル、日本、他1チームが2勝1敗で並び、得失点差で敗退)、結果は問うまい。

 目標は、ジーコも口にしたとおり「世界をあっと驚かせること」。そうして通過儀礼をクリヤーしたあと、日本サッカーはさらなる成長と飛躍を果たすに違いない。「日本サッカー青春時代の最後の闘い」は、何年か、何十年か後も、美しいものとしてしみじみ語り継がれるものになってほしい。

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